●キリスト教の聖歌がクラシック音楽の源流である
初期キリスト教も、詩篇を歌いました。まず修道院で小さいグループを作って歌を歌い、神を賛美しました。それは単旋律の聖歌で、「グレゴリオ聖歌」と呼ばれます。毎日お祈りの歌があって、その中で徐々に「典礼」というお祈りの形式が定められていきます。ミサの典礼です。
ミサはどのようにしてあげるか、言葉はどのようなものか、どのようにお祈りするかといったことが全て決まっていて、1冊の本に書かれています。例えば、よく歌われるのは「キリエ」や「グローリア」など、五つの部分がある通常文です。そうしたものが定まっていって、それをみんなで歌っていたのです。
中世の世界が徐々に経済的に発展していくと、都市が成立してきます。それまで小さな村の場合には、みんなの集会所である教会も小さくて済んだのですが、都市ではそうはいきません。
この間(2019年4月15~16日)、火事になったパリのノートルダム大聖堂は、大きいですよね。あそこに入ると、確かに本当に神秘的な、神様の世界が開けてくるような気持ちになります。ステンドグラスから美しい光が入ってきて、そこにオルガンが鳴ると、誰しもお祈りしたくなるという、素晴らしい場所です。
その聖堂の大きさゆえに、グレゴリオ聖歌のような単旋律、つまり一つのメロディでは少し物足りなく感じます。より演出が必要になってくるのですね。そこで始まったのが、一つのパートは聖歌をゆっくりと歌い、別のパートは第2、第3のメロディをつけていくという形式です。このように、複数のメロディを同時に歌うことを、「多声(ポリフォニー)」と呼びます。そうした音楽が生まれたのです。12世紀から13世紀に、パリのノートルダム大聖堂を中心に、「オルガヌム」というジャンルが始まります。
●複雑化していく聖歌の中から新たな作曲技法が急速に発展した
そうなると、ただ適当に歌うのではなく、きちんと作曲する必要があります。この音に対してはこの音と、音を組み合わせていかなければならないので、その法則が発見されました。このように、すぐに法則を発見する点が、いかにもヨーロッパなのですね。そうしたものが好きなんですね。それがピタゴラス精神です。
こうした法則を「対位法」と呼びます。もともとは「punctus contra punctum」で、これは「点対点」という意味です...