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12世紀後半の細密画から絵解きするリベラルアーツ

バッハで学ぶクラシックの本質(2)リベラルアーツの内容

樋口隆一
明治学院大学名誉教授/音楽学者/指揮者
情報・テキスト
リベラルアーツの自由七科
リベラルアーツとは具体的にどのような内容なのだろうか。文科系3科目、理科系4科目の計7科目に関して、12世紀後半に描かれた細密画を用いて、詳細な解説を加える。この絵には擬人化された7つの科目が描かれており、音楽を含めそれぞれの科目でどのような教育が行われていたかを一目でうかがい知ることができるようになっている。(全9話中第2話)
時間:08:16
収録日:2019/09/19
追加日:2019/11/01
ジャンル:
キーワード:
≪全文≫

●中世の絵から見るリベラルアーツ


 さあ、ここですてきな絵をお目にかけましょう。これは、女子修道院長であるヘルラート・フォン・ランツベルクという人が書いた「愉楽の庭」(Hortus deliciarum)、つまり楽しみの庭という文書の中で、挿絵として出てくる12世紀後半に描かれた細密画で、7自由学芸(学科)のリベラルアーツについて絵解きしているものですね。

 周りにいるのが7自由学芸ですが、真ん中に王冠をかぶっている人は「Philosophia」と書いてあって、哲学を意味します。そこで台詞があって、「私は哲学で、私の配下にある学芸を七つの部分に分ける」と言っているのですね。それで七つになっているわけです。手に持つ帯の左の方には、「全ての知は神より出づる」とあります。中世ですからね。とにかく洋の東西を問わず、分からないことは神様にお任せしたわけです。しかし、その分からないことの中身を知りたがったということです。右側には「神を求める者のみが賢者としてふるまうことができる」と書いてあります。

 そして、Philosophiaの胸から水が流れていますね。左に四つ、右に三つです。左の流れの下には、「哲学からは自由学芸と呼ばれる叡知の七つの流れが出づる」と書いてあります。右側は、「七つの自由学芸は精霊の道具を形づくるもので、文法、修辞学、弁証法、音楽、算術、幾何、天文学の七つから成る」、と。そして、2人の人物がいて、左がソクラテスで、右がプラトンだと、ちゃんと書いてあります。

●文科系3科目を絵解きする


 さて、この女性たちについて、一番上から右に説明していきましょう。

 最初は文法です。「Frau Grammatica」と呼ばれます。左手に教科書を持っています。文法は一生懸命勉強しないといけません。右手には鞭を持っています。今はもう日本の学校では許されなくなりましたが、ヨーロッパでも昔は怠けている子は鞭でぶたれたのです。そこの下には、「誰もがFrau Grammatica(文法)によって、文章、文字、シラブルの何であるかを学ぶ」と書いてありますね。

 その次は修辞学です。「Rethorica」と呼ばれます。昔の写本は読みにくいですが、左手に書き板を持っているのですね。今ではスマートフォンを使うのでしょうが、当時は板にチョークなどで書くわけです。そして、右手に持ったペンあるいは鉄筆で書いています。それで一生懸命書いて、文章を整えなければなりません。修辞学とはまさにそういうことです。

 そして、「Dialetica」がいますね。これは演説です。この左手にあるのは、「Caputo caminis」といって犬の頭です。中世の人はこのように言葉で闘うことをみんな覚えているので、ちょっとかなわないという気がしますね。


●学問としての音楽とその他の科目


 その次が音楽です。音楽は三つの楽器を持っています。これは「キタラ」と呼ばれるハープです。それから、左にあるのが「リラ」と書いてありますが、「ビエラ」という撥弦楽器ですね。最後の一つは、グルグル回して弦をこする、「ハーディーガーディー」という楽器です。ここには「オルガニストゥルム」と書いてあります。そしてその説明は、「私は多くを含み、さまざまな面を持つ学を教えるFrau Musicaである」と書いてあります。

 次は算術ですが、計算用の紐を持っています。紐で計算したらしいですね。それから、次は幾何です。測定用の棒とコンパスを持っています。次が天文学です。上の方に星が描かれていて、星を数えています。左手には丸いものを持っていますが、これは星座図です。当時は黄道(太陽の通るべき道)に沿って12の星座があって、それが人間の生活に影響を与えると信じられていたのです。それが占星術の起源です。今だって、例えば若い女性が何座だとか、相性がどうのこうのと結構そういうものを楽しんでいますが、こうしたことは、本当に洋の東西を問わず同じように考えられていたのですね。

 円の下の外に出ている人もいますが、これも面白いのです。「不純な霊感を受けたものたちは魔術とし、つまり作り事を書く」と書いてあるのだそうです。「Poete vel magi.」、つまり魔術師ですね。彼らはあまり神様と関係ない人たちなのですね。例えば、フェイクニュースですね。どこがフェイクだか、なかなか実は現代社会では分からないですけれども、しかしフェイク、つまり虚構を書く人たち、虚構を仕事としているような人たちは、教会や宗教の立場からいうと良くないと捉えられています。この七つの学問とは異なるものなのですね。埒外に置かれています。
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