バッハで学ぶクラシックの本質
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
「音楽の父」と呼ばれたバッハが影響を与えた名作曲家たち
バッハで学ぶクラシックの本質(9)「音楽の父」の晩年
芸術と文化
樋口隆一(明治学院大学名誉教授/音楽学者/指揮者)
バッハの晩年は、ヨーロッパの歴史を受け継いできたという自覚を持ち、非常にスケールの大きな曲を作っていった時代であった。最後の曲、「ミサ曲ロ短調」もおそらくカトリックの影響下で書かれており、キリスト教との強い関係は最後まで持ち続けていた。バッハの遺した音楽は、モーツァルトやベートーヴェンをはじめとした、クラシック音楽の巨匠たちに少なくない影響を及ぼし続けた。その意味で、バッハに冠せられた「音楽の父」という呼び名は妥当なものだと、樋口隆一氏が力説する。(全9話中第9話)
時間:16分05秒
収録日:2019年9月19日
追加日:2019年12月12日
カテゴリー:
≪全文≫

●ヨーロッパの歴史の一部という自覚の下、作品を書いた晩年のバッハ


 これはハウスマンという人が描いたバッハの肖像画です。確か、バッハ63歳の時のものです。バッハは65歳で亡くなりますので、かなり年を取ってからの肖像画なのです。頭にカツラをかぶっているので、これは正式な礼装です。バッハはこの当時、すでにザクセン選帝侯国の宮廷作曲家という、大変名誉ある称号を得て、ヨーロッパの大音楽家の1人になっています。出世するところまで出世した彼が、自分の姿をこのようにとどめたかったという意図がよく分かります。

 手に紙を持っていますが、これは自分で書いたカノンの楽譜です。もともとバッハの弟子だったミーツラーという人が始めた音楽学術協会がありましたが、そこの会員は、学識ある音楽家、つまり誰が聴いても立派な音楽を書いた音楽家しかなることができませんでした。バッハは、その協会の会員になるという、大変な名誉を得たのですね。これは、その時の記念肖像画です。したがって、やはり少し照れくさそうでもありますが、満足げですよね。

 前回少し述べたように、パワハラに遭っていたということも事実ですが、晩年のバッハはあまり気にしていなかったでしょう。パワハラに遭ったので、教会での仕事は最低限でこなしました。「教会カンタータ」は新作である必要はありませんでした。すでに200曲程度書いていたので、それらを入れ替えながら上演していました。あるいは、他のめぼしい作曲家の作品を上演していました。それで構わなかったのです。

 バッハの上役たちは、バッハの作曲家としての真価には、あまり興味がありませんでした。学校の先生ですから、普通に授業をしてくれれば良いと思っていました。世の中、そういうものですね。バッハも割りきっていて、上役たちが彼の真価を分からないのであれば最低限の仕事をこなして、あとは自分の芸術のために時間を使おうと思っていたのです。

 晩年のバッハが、今日お話しした中世、ルネサンス、バロックと綿々と続いてきたヨーロッパの音楽の美しい歴史の最後にいるのだという自覚を持っていたのは、はっきりしています。つまり、そうした歴史にのっとった自分の芸術が、新しい世の中になって否定されかけていると感じたのです。そして、分からない人間に聴かせてもしょうがない。それでも、...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎

人気の講義ランキングTOP10
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(2)外交と軍事のバランス
外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?
小原雅博
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
数学と音楽の不思議な関係(3)音と三角関数とフーリエ級数
フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる
中島さち子
編集部ラジオ2025(20)納富信留先生の「アカデメイア」講義
プラトンのアカデメイアからテンミニッツ・アカデミーへ
テンミニッツ・アカデミー編集部
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留
「集権と分権」から考える日本の核心(4)荘園発生から武家の時代、王政復古へ
武士が推進した“私”の増殖…中央集権はいかに崩れたか
片山杜秀
睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション
寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由
西野精治
キケロ『老年について』を読む(1)キケロの評価と「老年の心構え」
老年が惨めと思われる4つの理由とは…キケロの論駁に学べ
本村凌二