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はやぶさで有名になった「イオンエンジン」の仕組みは?

宇宙探査の現在と可能性(5)イオンエンジンとは-1

小泉宏之
東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授
情報・テキスト
有人火星探査のためのポイントは、総質量とコストをなるべく少なくすることである。そのための方策として挙げられるのは、電気推進機である「イオンエンジン」だ。イオンエンジンの要となるのは、イオンを発生させるためのプラズマ生成である。(全10話中第5話)
時間:11:08
収録日:2019/06/11
追加日:2019/07/08
カテゴリー:
≪全文≫

●総質量をいかに減らすことができるのか?


 前回まで有人火星探査の概算を見てきたのですが、その中で明らかになったのは、非常に大きな質量を運ぶことが必要であるということです。このように非常に大きな質量を運ばなければならない一番の要因は、秒速8キロメートル毎秒ほどかかる、火星の往復です。先ほどのロケット公式から計算したように、宇宙船自体は100トン弱なのですが、そう質量はその約10倍の1000トンに膨れ上がってしまいました。今回は、これをどうにかできないかということについて考えます。特にそのための方策として、電気推進機、あるいは「イオンエンジン」を紹介します。

 まず、イオンエンジンを使うと、ものを投げる速度である排気速度を通常のエンジンの役10倍に上げることができます。グラフを見ると、今まで宇宙で使ってきたものは3キロメートル毎秒ほどの排気速度でしたが、イオンエンジンではそれを一気に30キロメートル毎秒に増やすことができます。以下では、この可能性について見ていきたいと思います。


●はやぶさで有名になった「イオンエンジン」とは何か


 はじめに、イオンエンジンとは何かについてお話しします。そのために、まず「電気推進」と呼ばれるものを紹介させてください。

 電気推進とは、ものを投げるロケットエンジンの1つのことで、ものを投げるもともとのエネルギーとして、電気の力を使っています。電気エネルギーを使ってものを投げるために、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する装置が「電気推進機」です。

 先ほど言ったように、この電気推進機を使うと10から100キロメートル毎秒という非常に速く物を投げることができます。いろいろな電気推進機があるのですが、よく使われているのは大体20~30キロメートル毎秒のものです。もっと高い100キロメートル毎秒にすることも可能です。

 これは構造的にはどうなっているのでしょうか。まずやはり、投げる物は持参しなければなりません。何か持ってくる必要があります。ただし、そのためのエネルギーは基本的に太陽光から発電し、その電力で物を投げます。そのため、システムとしてみると、電力と物から推力を出すような装置が電気推進機であるといえます。

 電気のエネルギーを使って物を投げる装置が全て電気推進機というものになるので、その方法はたくさんあります。電気推進の中にはさまざまなロケットエンジンの種類があるということです。そのうちの一つが、はやぶさで有名になった「イオンエンジン」と呼ばれるものです。他にも後でお話しするホールスラスタや、映画の『オデッセイ』で出てきた「VASIMR(ヴァシミール)」と呼ばれるエンジン、すでに実用化されているアークジェットスラスタ、小型のPPTなど、たくさんの種類があります。そして、この電気推進の特徴が、非常に速い速度で物を投げることができるということです。


●イオンエンジンには3つの重要なパートがある


 その中でも一番有名になったイオンエンジンについて、その仕組みを見ていきます。イオンエンジンは、大きく分けて3つの重要なパートがあります。プラズマの生成部分、イオンの加速の部分、そして電子による中和の部分の3段階です。

 まず、プラズマの生成部分を見ていきます。はじめに、スライドの左上にある容器に、ガスと電力を入れることで、「プラズマ」と呼ばれる状態をつくり出します。

 プラズマとは何かというと、ざっくりいえば、電気的な性質を持ったガスです。この電気推進機は、電気の力で何か物を投げる際に利用されるものなのですが、ここではガスを投げることが想定されます。その際に、普通の状態のガスは「中性」と呼ばれる状態で、基本的に電気的な作用を行いません。そのため、いくら電気をかけても、何も反応しません。

 このままでは何もできないので、少し違った状態に移してから加速を行います。その違った状態がプラズマです。そのため、プラズマとは物ではなく、状態を指す言葉です。原子から電子が1個外れた状態、つまり電子が一つ外れた原子のことを「イオン」と呼ぶのですが、このイオンと電子、そして何も外れていない普通の原子、この三つがごちゃごちゃに混合している状態のことをプラズマといいます。そして、このごちゃごちゃになっている状態が電気に対して反応します。その性質をうまく使って加速を行...
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