●宇宙探査のために必要なものとは?
続いて、有人火星探査の概算について説明していきたいと思います。
まず、深宇宙探査をするために必要な、基本的物質について考えみたいと思います。基本的な宇宙探査は無人で行いますが、そのときに必要なものはまず宇宙空間に出るためのロケットです。その次に、通信を行ったり姿勢を制御したり電力を発電したりする探査機そのものが必要です。さらに、通常であれば宇宙のどこか遠くまで探査に行くので、そのときのためにエンジンと推進剤が必要となります。特にこの推進剤の量が多いことには注意が必要です。
これに対して、有人の場合必要な物資が増えます。まず、有人なので当然人が増えます。そして、人がいると、当然この人の生命を維持させるために水や酸素、食料が必要になるでしょう。さらに人がいるとなると、居住区も必要となります。今回、有人の火星の往復探査を考えるとなると、火星に行くための着陸船も必要となります。このような物が増えた際、全体でどれくらいの重さになるかということを、ここでは非常に大雑把ですが概算してみたいと思います。
●地球を出るところまでは数日あれば十分
火星に行ってまた帰ってくるための道筋は、前回大雑把に説明したので、今度は時間を計算してみたいと思います。
有人ですので人がいるということで、人がいると人が食べる食料、水、酸素の量が時間に伴って変化していきます。これはどれくらい必要なのでしょうか。
前回までの話をもとに、それぞれの段階でかかる時間を見積もっていきます。まず地球を出るところです。実は、このフェーズではあまり時間はかからず、数10時間から数日で済むと考えることができます。どこから地球を出たか次第なのですが、加速して地球からある程度遠いところに移るためには、数日あれば十分です。早ければ1~2日というレベルで地球から遠いところに移ることができます。
●地球から火星まで約260日かかる
長いのはこの後です。地球をある速度で離れて、太陽周りを回りながら火星に行くとき、前回ご紹介した道筋をたどると、約259日かかります。実は、火星の軌道は真円ではなく少しひずんでいます。地球に比べるとかなりひずんでいるので、地球から近いときや遠いときがあるのです。そのため、うまいタイミングを選べば火星に到着する時間は短く済みますが、下手なタイミングだと長いこともあります。ここでは、火星の軌道がもし丸かったらという仮定を置いて計算しています。平均的な軌道を取っていると考えた場合、約260日かかるということです。地球から火星までが約260日ということで、地球から脱出するのに比べるとはるかに長く、約3分の2年の時間がかかってしまうのです。
●戻ってくるためには星の配置が重要
これが片道ですので、往復ですとその倍の520日ほどかかると考えてしまいそうなのですが、ここではそうはうまくいきません。なぜかというと、地球と火星は両方とも動いていますので、両者の位置について、タイミングを考えなければならないからです。
このタイミングをアニメーションと一緒に見ていきたいと思います。地球と火星の動きをおおよそ表したのがこのアニメーションです。基本的には太陽のそばを回っている惑星ほど速い速度で回っています。そのため、火星はゆっくりと回っています。つまり、火星の方が地球より外側、太陽より遠い距離にあり、さらにゆっくりと回っているということで、火星が太陽の周りを回るには、約2年弱かかります。このアニメーションのようにぐるぐるまわっていて、お互いの位置がどんどん変わっていきます。
こうした状態において、先ほどのように地球が火星にぴったりつくには、この図だと地球が右端にあり、その地球よりも少し先に火星がいる状況がベストです。
アニメーションで示していますが、この状態で探査機が地球を出発すると、良いタイミングでちょうど火星に到着することができます。
これが火星に到着したときの図です。問題なのは帰るときです。探査機が火星に到着した際には、地球は探査機や火星よりも早く回っています。そのため地球は先行してしまっているのです...