●火星着陸船をアポロから類推する
次に考えるのは着陸船です。火星有人探査では、火星の軌道上に行って帰ってきても良いのですが、できたら火星の表面に降りたいので、着陸船についても考えてみたいと思います。
この着陸船を考えるのは、非常に難しいのです。今まで誰も、火星に着陸し、さらにまた打ち上がって帰ってくるという機体をつくったことはありません。有人であればなおさらです。またこれは、火星で実際に何を行うのか、降り立つ人数や降り立つ日数などによって、大きさや構造も大きく変わります。そのため、見積もりが難しいのです。
しかしその中でも、ここで考えている物に一番近い物として、アポロの着陸船を考えてみたいと思います。これが唯一、人が重力天体に行き、帰ってきたときの乗り物です。これを参考にします。
アポロ着陸船は、総質量が15トンで、この中のほとんどの重さは推進剤が占めていました。その重さは約12トンです。そして、構造と荷物が約3トンでした。この時に月に降り立ったのは2人で、約20時間滞在して戻ってきました。これから類推して、火星の着陸船の重さを決めたいと思います。結果的にはアポロの2~3倍の重さになります。
●大気と重力の違いがあるが、月と火星は良い比較になる
しかし、アポロの着陸船は当然月の着陸船なので、火星の着陸船とは違います。ご存じの方もいるかもしれませんが、月と火星では重力が異なり、大気の有無も違います。とはいえ、少し考えると月と火星は着陸船を類推する上で良い比較対象になります。
火星には大気があり、最初この星に入る際には大気を使ってブレーキをかけることができます。火星の大気は地球の1パーセント程度で非常に薄いのですが、これまでNASAが送り込んだ無人の探査機は、この大気を使いながらパラシュートを広げて大きな減速を行い、着陸しています。最後にはジェットや車のエアバックのような物を使いながら、着陸しました。エアブレーキを非常にうまく使って、減速し着陸しています。
一方で月の場合、利用できる大気がまったくありません。そのため、原則的にはエンジンの力で減速しなければなりません。この点で考えると、火星の方がやはり有利...