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有人火星探査にはどれくらいの費用がかかるのか

宇宙探査の現在と可能性(4)有人火星探査の概算-2

小泉宏之
東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授
情報・テキスト
有人火星探査にかかる費用について概算してみよう。火星探査のためには、地球の周回軌道に1000トンの構造物を打ち上げる必要があるが、宇宙ステーションやアポロにおけるミッションでかかった費用を考えると、最低でも数十兆円という莫大な費用がかかることが分かる。(全10話中第4話)
時間:13:28
収録日:2019/06/11
追加日:2019/07/01
ジャンル:
≪全文≫

●火星着陸船をアポロから類推する


 次に考えるのは着陸船です。火星有人探査では、火星の軌道上に行って帰ってきても良いのですが、できたら火星の表面に降りたいので、着陸船についても考えてみたいと思います。

 この着陸船を考えるのは、非常に難しいのです。今まで誰も、火星に着陸し、さらにまた打ち上がって帰ってくるという機体をつくったことはありません。有人であればなおさらです。またこれは、火星で実際に何を行うのか、降り立つ人数や降り立つ日数などによって、大きさや構造も大きく変わります。そのため、見積もりが難しいのです。

 しかしその中でも、ここで考えている物に一番近い物として、アポロの着陸船を考えてみたいと思います。これが唯一、人が重力天体に行き、帰ってきたときの乗り物です。これを参考にします。

 アポロ着陸船は、総質量が15トンで、この中のほとんどの重さは推進剤が占めていました。その重さは約12トンです。そして、構造と荷物が約3トンでした。この時に月に降り立ったのは2人で、約20時間滞在して戻ってきました。これから類推して、火星の着陸船の重さを決めたいと思います。結果的にはアポロの2~3倍の重さになります。


●大気と重力の違いがあるが、月と火星は良い比較になる


 しかし、アポロの着陸船は当然月の着陸船なので、火星の着陸船とは違います。ご存じの方もいるかもしれませんが、月と火星では重力が異なり、大気の有無も違います。とはいえ、少し考えると月と火星は着陸船を類推する上で良い比較対象になります。

 火星には大気があり、最初この星に入る際には大気を使ってブレーキをかけることができます。火星の大気は地球の1パーセント程度で非常に薄いのですが、これまでNASAが送り込んだ無人の探査機は、この大気を使いながらパラシュートを広げて大きな減速を行い、着陸しています。最後にはジェットや車のエアバックのような物を使いながら、着陸しました。エアブレーキを非常にうまく使って、減速し着陸しています。

 一方で月の場合、利用できる大気がまったくありません。そのため、原則的にはエンジンの力で減速しなければなりません。この点で考えると、火星の方がやはり有利です。有利というのは、エンジンを使わずに降りることができるということです。しかし他方で、重力に関して火星と月を比べると、それぞれの表面の重力が約2倍違っており、月から出るよりも、火星から出る方が当然大変です。

 それぞれの大きさを比べると、着陸する際には火星はブレーキの分を、速度増分でいうと約1キロから2キロメートル毎秒、月に比べて得することができます。しかし、火星から出発するときには、月に比べると約2キロメートル毎秒、大変な思いをする必要があります。このように考えると、実はこの差はそれぞれ打ち消し合うので、火星の着陸船を月の着陸船から考えるのは、悪くないアナロジーです。


●火星探査の宇宙船は約100トンとなる


 次に想定しなければならないのは、ミッションの内容です。ここではとりあえず、火星に下ろす荷物は人を含めて約3トンであると設定したいと思います。もちろん荷物の質量は、滞在日数や人数など、ミッション次第で変わるのですが、大雑把に3トンとしておきましょう。ここではさらに、4名が100日~110日滞在するのに最低必要な物資は、約3トンであるという想定です。実際、人や食料と水、酸素、循環装置、あるいは簡易的な居住空間、観測装置などが必要なので、それらを合わせると3トンになる、という意味です。

 アポロ着陸船は、構造と荷物を合わせて3トンであり、総質量が15トンでした。これに3トン足すと、構造と荷物で6トンになります。そうすると、全体としては少なくとも倍のサイズにはしなければならないだろう、という見積もりが立ちます。そこで火星着陸船は、大雑把に総質量30トンであるとして、ここでは見積もりを進めていきたいと思います。これはかなり大胆な見積もりなので、もしかすると倍の60トンになる可能性もあります。

 そうすると、今までの概算をまとめることができます。まず着陸船が今言った30トンで居住区が約30トンです。そして最初に話した食べ物や水や人の重さがそれぞれ0.4トン、2.3トン、3.5トン、1.8トンです。この細かいものを全部合わせると約8トンです。合計すると68トンになります。概していうと、人自体や水等は循環装置があれば、そこまで重くありません。一番大変なのは、ある程度の...
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