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「最適化」の問題で活用が期待される量子コンピュータ

本当によくわかる「量子コンピュータ入門」(3)計算の仕組みと応用

武田俊太郎
東京大学大学院工学系研究科准教授
概要・テキスト
量子の性質をもっともよく表す典型的な実験に「2重スリットの実験」がある。これは「水の波」を利用するとイメージしやすい。量子を「粒」ではなく「波」として捉えることで、そこで生じた「重ね合わせ」と「干渉」という現象を計算の原理に応用するということだ。そうして、薬や素材の開発、また最適化といった応用分野などに画期的な成果をもたらすことが、量子コンピュータに期待されている。(全4話中第3話)
時間:13:18
収録日:2022/03/09
追加日:2022/08/09
カテゴリー:
≪全文≫

●2重スリットの実験――量子を「波」を考えるとイメージしやすい


 次に量子コンピュータの「計算の仕組みや応用」に踏み込んでお話ししたいと思います。

 「量子とはそもそも何か」をしっかりとお話ししていなかったのですが、端的にいうと、量子とは「物質やエネルギーの最小の単位」を表す言葉になります。

 例えば、世の中にある全ての物質は、小さく小さく見ていくと、原子という小さな粒からできていることが知られています。この原子も、ある種「物質の最小の単位」になっていて、量子の1つです。さらにもう一段見方を変えて、原子をさらに細かく見ていくと、原子の中に「電子」「陽子」「中性子」といったより小さな粒が出てきます。実はこういった粒も全部量子の仲間です。このようなさまざまな粒を合わせて、全部「量子」と呼んでいるのです。量子というミクロな粒の世界は、私たちの日常感覚で知っている世界とは少し違った、感覚的には不思議な自然法則に従うことが知られています。

 その量子の性質をもっともよく表す典型的な実験が「2重スリットの実験」と呼ばれるものです。この実験を知っておくと、なんとなく量子コンピュータがどういう仕組みで計算しているかもイメージできるようになるため、ここで少し紹介したいと思います。

 まず量子のことを少し忘れて、水の波のお話をします。水の表面をツンツンつつくと波が発生します。その水面を進む波が「隙間の空いた穴」にぶつかることを考えてみましょう。

 波というのは山・谷・山・谷と交互に繰り返されるような構造になっています。これがこの隙間を通り抜けると、そのちょっとあとで少し広がりながら後ろのほうに進んでいきます。その結果、後ろの壁の真ん中のあたりにもっとも強い波が当たることはなんとなくイメージできるのではないでしょうか。

 この隙間が2つあった場合が、「2重スリット」という言葉に相当するものになります。隙間が2つある場合に何が起きるかというと、1つの波が左側の隙間と右側の隙間をそれぞれ通り抜けて、後ろで重なり合います。その結果、後ろの壁の部分に、縞模様のように波が強い部分と弱い部分が表れます。2つの波が合わさるときに強め合ったり、弱め合った...
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