●1割の国が工業を独占し、9割の国が安い資源を売る時代が続いた
今日は、日本の基本的な戦略である「資源を輸入して製品を輸出し、それによって稼いだお金でまた資源を買う」という、いわゆる加工貿易というものが今後はもう成り立たないというお話と、合わせて、われわれは、エネルギー、鉱物資源、食料といった基本的な一次資源を自給する国家にならなくてはいけないし、そういう国家になれる、というお話をさせていただこうと思います。
まず、この図を見ていただきたいのですが、これは、縦軸が世界の主要国で、その中には日本も入っていますが、主要国の1人当たりのGDPを、その時々の世界平均の1人当たりのGDPで割った値を示しています。いま世界の主要先進国が3とか4という値のところにいるというのは、世界平均の3倍から4倍の所得を得ているという意味です。
1,000年ぐらい前ですと、主力の産業はほとんどが農業で、江戸時代になっても85パーセントは農業を主力としてやっていたわけです。
その状況を変えたのが産業革命でした。産業革命によって工業が起こったのです。工業製品は、一部の国でしかつくれなかったため、非常に高価だったわけです。昔、1つのトランジスタラジオが、大きなズタ袋でカカオ豆3袋と等価交換されたという時代がありました。それぐらい資源が安く、工業製品が高かったわけです。
では、なぜ資源が安くて工業製品が高かったのでしょうか。それを考えてみる必要があります。なぜかと言うと、産業革命をやった国は、1割の先進国だったからです。つまり、ヨーロッパの国と日本と、ヨーロッパのクローンとも言える北米、つまり、アメリカ、カナダと、それからオーストラリア大陸が先進国で、人口にすると世界の10パーセントの国で、これらが工業を独占していたわけで、この他のアフリカ、アジア、南アメリカの国は、工業をやれなかったし、やるだけの力もなかったのです。
そうすると、この90パーセントの人口の国は、売るものというと一次資源しかなかったわけです。ですから、工業製品が極めて高く、一次資源が安いという時代がずっと続いていたのです。
●21世紀は先進国と途上国の差が急接近、加工貿易モデルが成立しなくなる
ところが、この図でも分かるように、ここ10年、20年で、先進国の人たちと途上国の人たち、ここにはインドと中国しか書いてありませんけれども、その差が急激に接近してきているのです。これはご案内の通り、先進国がだんだん飽和して成長率が落ちてきて、途上国が高い成長率でどんどんと追いついてきているということです。
では、途上国は何をやって追いついているのでしょうか。それは、工業です。つまり、中国もインドもタイも、工業を手にすることになり、どんどんと先進国に追いついてきているのです。
ということは、21世紀は、ほとんどの国が工業を手にするということになります。20世紀の10パーセントが工業を行い、残りの90パーセントが資源を売ったという時代から、9割の国が工業製品を売る力を持つという時代になるということです。
そうなれば、世界はどうなりますか。当然、一次資源に対する工業製品の付加価値が小さくなっていきます。それは、私たち日本の加工貿易というモデルが、もう成り立たないということを意味するわけです。
こうなれば、話は早いですよ。すでに今でも、工業製品が大変な競争にさらされていると感じています。やがて、ごく一部の高級品しか競争力がないという時代になるのです。これは、人類の文明の発展において当然の成り行きなのです。
●日本が自給国家を目指すことは可能である
では、そのとき、どうしますか。私たちは、一次産業や一次製品を自給する国になっていかなければならないのです。それが可能かどうかということが大事なのですが、合理的に考えれば、これは極めて可能なことです。
それを示したのが、こちらで、私が提案しているものです。エネルギーの自給は、2050年に70パーセント可能です。これについては、この講義の中の1つでお話ししました。基本は、エネルギー効率を上げることによってエネルギー消費が減っていくということと、再生可能エネルギーを増やしていくということ。この2つで70パーセントの自給ができるのです。
それから、鉱物資源。これはリサイクルという話で、この講義の中でも都市鉱山というタイトルで話しています。鉄鉱石でも、アルミニウムでもいいし、金でもいいのですが、それらをリサイクルしていくためには、まず人工物は飽和していくということが前提にあります。いま日本では、自動車の数は5,800万台で、廃車になった分だけ新車が売れていくという飽和の状況になっています。そのとき、必要な金属資源は、廃車の中に含まれているわけです。ですから、これを回...