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キャッチアップからフロントランナーへ!

課題先進国としての日本

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長
情報・テキスト
『「課題先進国」日本―キャッチアップからフロントランナーへ』
(小宮山宏著、中央公論)
環境、エネルギー、少子化、高齢化など、日本の課題はまもなく世界の課題になる。自力で課題を解決し、新しいモデルを世界に導入するためには?前東大総長が語る、日本がこれから進むべき道。
時間:10:52
収録日:2008/05/21
追加日:2014/05/30
タグ:

●さまざまな課題に満ちた日本


 課題先進国について話をさせていただきたいと思います。

 私は最近、「日本は課題先進国である」ということを言い続けております。

 これはどういう意味か。日本はさまざまな困難な課題を持っています。エネルギーが日本にない。さまざまな資源が日本にない。廃棄物が多くて捨て場所がない。あるいは少子化が進んで未来が心配である。高齢化が進んで労働力が減ってくる。年金が増えてくるといった問題をどうしようかというようなさまざまな問題というのが満ちていて、それが新聞やテレビなどでも盛んに心配されています。

 それでは、これらは日本固有の困難なのだろうかと考えてみたいわけです。今言ったような、エネルギーの問題、環境の問題、少子化の問題、高齢化の問題。実は、これは世界に先駆けて、日本が経験している問題だととらえるべきだと思います。


●地球規模で急激に進む課題先進国化


 想像してみてください。21世紀、まもなく中国が先進国の仲間入りをします。今、急激な、日本の1960年代の高度成長のような成長を続けているわけです。それから、インドがそれに続いて先進国の仲間入りをするでしょう。ほかのアジアの国々もそうでしょうし、南アメリカ、アフリカといったところが続く。こういった世界中の国々の生活レベルの向上、先進国化という現状は、2050年まではかからないでしょう。

 そのとき何が起こるか。世界中に日本と同じような状態、既に石油は足りなくなってきていますが、資源が足りない。エネルギーが足りない。ごみの捨て場所がない。少子化する。少子化というのは、今日出た新聞によると、今日本で1.25、つまり2人で1.25人しか子どもを持たないという時代に入ったわけです。よく考えてみると、中国というのは1人っ子政策ですから1.0です。ですから、中国は世界で一番高齢化のスピードが早い国なのです。

 高齢化の問題、少子化の問題、エネルギーの問題、環境の問題、こういった日本の問題というのは、中国やインド、その他の国が先進国になったときの、すべて地球上の問題なわけです。そういう意味で、日本は課題に満ちているけれども、それは世界に先んじて日本に課題があるという意味で、私は課題先進国と呼んでいます。

 では、この心は何かというと、日本のチャンスだということです。どうしてチャンスかと言うと、日本がこの自分たち自身の問題を解決すれば、それが世界の新しい21世紀のモデルになるということです。


●開国から100年で世界GDP2位へ


 これは実は、日本にとって歴史上の極めて重要なポイントです。

 日本は江戸時代の間、鎖国をしました。その間に産業技術において遅れをとったわけです。ペリーが黒船でやってきて、その黒船と自分たちの船との大きさの差、それはもうまさに国力の差であって、日本は植民地化するのではないかという国の存亡の危機を感じたわけです。

 アジアのほとんどの国が植民地化する中で、日本はそうした危険を乗り越えて、何度かの戦争を経つつも先進国になったわけです。いつなったかと言うと、ちょうどこれは偶然なのですが、1868年に明治維新、それから100年経った1968年に、日本のGDP、国内総生産というのが世界の第2位になったのです。アメリカ以外のすべての国をぬいて第2位に立ったのです。

 江戸時代の間に日本が負けたというのは、決して文化で負けたわけではなくて、産業技術で負けたということですから。文化というのは、例えば食べ物、寿司、天ぷらといったようなものは今でも世界一おいしいわけですし、美術で浮世絵などというものがなかったら、後期印象派というのは成立しえなかった。ゴッホなどはたくさん日本の浮世絵を模写しているというぐらい、文化的にもすぐれていたわけです。

 茶道、生け花といったようなものも、本当に精神性の高い文化を作ってきた。負けていたのは産業技術だったわけです。ところが、その産業技術で1968年に完全に追いついたのです。このとき日本は先進国になったわけです。


●課題先進国から課題解決先進国へ


 この先進国の日本が、新たな課題を解決して新しい世界のモデルを作る。これは明治以降初めてのことです。明治維新には負けていたから、あらゆるものを導入していったわけです。イギリスから議会制度を導入し、フランスから警察制度を導入し、ドイツから大学の制度を導入し、産業もあらゆるものを導入しました。当時は化学の先進国だったドイツから化学産業を導入し、アメリカから自動車産業を導入しといったような形で導入してきたわけです。

 しかし、今や課題の先進国になったのだから、自分たちの課題を解決すれば日本の新しいモデルが世界の新しいモデルとなり、それが世界に導入されるというチャンスを、日本がつかんだことになる。日本に巡って...
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