●円安を林業の復活に活かす奥の手とは
―― でも、先生。いろいろな問題がありつつも、やはり日本には実際にやれることが、いっぱいありますよね。
小宮山 それは、いっぱいあります。例えば、今はアベノミクスで円が安くなっていても、輸出は増えていないのです。それは結局、自動車会社に代表されるように、実際の製品をつくるのはマーケットに近い所で行うのが当然になっているからです。この流れは、円の価格とは関係なく動いてきたものです。
では、円安では輸入物価が上がるだけのネガティブなことしか起こらないのかと考えると、私は日本でプラチナ産業をつくっていくことの助けになるかもしれないと思っているのです。
例えば、典型的な例が林業です。林業が復活すると、私たちの計算では日本中に雇用が50万人生まれます。また、今のように森が全く放置されている状況を管理していくので、雨が降るとあちこちで土砂崩れが起きるような事態も防げます。
ですから、これは本当にプラチナ産業なのですが、切った木はどうするのかという問題があります。本当なら輸入材を減らして、切った国産材を使っていけばいいのですが、一旦できているサプライチェーンをいきなり大きく変えることもできません。変化は、やはり徐々につくっていくのが、トランジション・マネジメント(移行管理)を行う上で大切です。
では、切ってしまった木はどうするか。これは、木のない所へ輸出します。実は韓国と中国の二つの国には木がありませんので、そちらへ輸出するのです。その時に円安が効いてきます。円が120円の時代であれば、80円の時代の3分の2で相手国に売ることができるので、非常に高い競争力があるのです。
●「新技術+円安」の考え方で、新しいビジネスを開く
小宮山 そのように、円安を日本のプラチナ産業を育てるために活かす発想があるのではないかと思っているのです。
―― なるほど。円安になってから始める商売をやれば、それはオリジナルだから、既存の日本の産業とは違うわけですね。だから、新しい産業をつくるチャンスだということですね。先生が「日本は課題先進国だ」と言われる中には、「課題先進国だから、新しいビジネスがつくれる」という意味が含まれているのですよね。そこにさらに円安の要素を加味することで、新技術と一緒にできる商売をつくればいいというわけですね。
小宮山 私は最近、そう思っているのです。
―― そう考えると、明るいですね。今回の小水力発電も、長野県松本市での取り組みが一つ成功すれば、横に展開できるようになりますね。
小宮山 はい。そうなったら当分は、水力発電機は日本でつくってもいいと思います。もちろん円の安い所でつくれば競争力がありますが、やがては海外に新たな工場をつくる時代が来るでしょう。しかし、当面は日本でつくり、その間にどんどん性能を上げていくことができます。
●小水力発電機が「1kW10万円以下」になる日とは
―― 今は100基だから1kW60万円ですが、1万基つくれば10万円以下になるかもしれないとも言えますよね。
小宮山 それは、そうです。だって、なぜプリウスがあんな値段で売れるのかを考えてみればいいのです。あれは、もしもバラしてパーツで売れば、トータル1000万円になりますよ。ところが、年間に100万台売れる車だから、あのように2、300万円の価格で売れるのです。
水力発電機の場合も、まずは1年に1基つくっているところを、とりあえず100基にする。それがやがて1万基になり、10万基ということになれば、それこそあなたのおっしゃるように1kW10万円の時代がやってきます。
―― しかも、10万円になった製品は、そのときの為替次第では1000ドルではなく、上下する可能性を含んでいる。
小宮山 いくらになるかは分かりませんけどね。
―― 例えば150円になっていれば、やはりその分ガサッと下がります。そうすると10万円を切るような金額にも勝手になっていたりする。そのあたりは、円安になったときの為替との組み合わせ方次第ですよね。
●プラチナ産業としての「食」は輸出品目になり得る
小宮山 ですから、「生活のクオリティを上げていく」ことがプラチナ産業の定義なのです。例えば、水力発電は安心・安全なエネルギーということですし、林業は山の保持や維持にもなります。これらは環境やエコロジーでもありますし、多様性ということにもつながります。
それから、おいしくて安全な食べ物の開発分野でもチャンスが生まれてきます。例えば今、1個1000円のリンゴや一粒1000円の「あまおう(いちご)」が売れていますよね。あれを輸出するのに、昔なら800円で売らなくてはならなかったのが、今や1200円でも売れる。円...