50年ぶりの「円安」日本~その原因と為替対策に迫る
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
給料も物価も上がらない日本…円安との密接な関係
50年ぶりの「円安」日本~その原因と為替対策に迫る
政治と経済
伊藤元重(東京大学名誉教授)
日本は円安が進む中、「実質実効レート」への理解が問われている。名目為替に物価を加味した実質実効レートは実感値に近く、通貨間の強弱関係がより正確に伝わるからだ。実質実効レートで見ると、現在は「50年ぶりの円安」だといわれている。そのような事態になった原因はどこにあるのか。また、この問題はどうすれば打開できるのか。この機会に考えてみたい。
時間:15分55秒
収録日:2022年4月7日
追加日:2022年5月30日
カテゴリー:
≪全文≫

●円安が続く日本、インフレ懸念の世界


 今日は為替について、日頃考えていることをお話しさせていただきたいと思います。

 ご案内のように、アメリカではインフレ懸念が非常に高くなり、アメリカ中央銀行が金利を上げていくだろうと予想されています。そのような中、日本は相変わらずのマイナス金利(ゼロ金利)の状態が続いています。これにより金利差が広がりますから、資金はドルに向かう。つまり、為替でいえば「円安」になる流れがずっとできていたわけです。

 今般、ロシアがウクライナへ侵攻するという情勢となり、石油や天然ガスの価格がさらに上昇を続けるだろうというマークが強くなりました。そのため、主要国のインフレ懸念が高まり、アメリカだけではないと思いますが、特にアメリカの金利がさらに上がるのではないかという認識が広がっています。

 最近の報道では、金利を上げることに非常に慎重だったはずのハト派の政策関連の方までが「タカ派に変身した」という表現がありました。アメリカの金融政策がタカ派的に動くほど金利が上がり、円安が進みます。ここにきてそのような形での為替が動きが見られ、今の時点(4月7日時点)でも120円から125円に近いところまで来ています。これは、われわれが再度きちんと考える時期にきているのだろうということです。


●実質実効レートが重要な理由


 為替において非常に難しいのは、いわゆる名目レートと実質実効レートの間に大きなギャップがあるということです。

 名目上の円ドルレートは毎日報道されているように、1ドル120円なり110円なり125円という流れです。一方、実質実効レートのほうは正確には実質実効(為替)レートといいます。実効レートのほうは、円ドルだけではなく円ユーロや円人民元など、いろいろな通貨と円の間の名目レートを平均的に出すということなので、それほど重要ではありません。ここに「実質」がつくとどうなるかというと、物価を加味して考えなければならなくなります。

 ですから、例えば同じ1ドル=115~120円の場合でも、この間に日本の物価に比べてアメリカの物価が上がっていくと、実質実効レートはどんどん円安になるということだろうと思います。どのように上がるのかというと、実質実効レートでは物価も加味したレートで見なければいけないということです。

 少し実感しにくいかもしれないので、具体的な...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
自民党総裁選~その真の意味と今後の展望
「マスコミ報道」では見えない自民党総裁選の深い意味
曽根泰教
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
アンチ・グローバリズムの行方を読む(1)世界情勢の転換
強まるアンチ・グローバリズムの動きをどう見ればいいか
岡本行夫
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
クライン『ショック・ドクトリン』の真実(1)ショック・ドクトリンとは何か
100分de名著!?『ショック・ドクトリン』驚愕の印象操作
柿埜真吾
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一

人気の講義ランキングTOP10
「アカデメイア」から考える学びの意義(4)学びの3つのキーワード
より良い人生への学び…開かれた知、批判の精神、学ぶ主体
納富信留
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
川口淳一郎
「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念
日本は集権的か分権的か…地理と歴史が作る人間の性質とは
片山杜秀
編集部ラジオ2025(19)堀口茉純先生の「講義録」発刊!
著者が語る!『『江戸名所図会』と浮世絵で歩く東京』
テンミニッツ・アカデミー編集部
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
宮脇淳子
定年後の人生を設計する(1)定年後の不安と「黄金の15年」
不安な定年後を人生の「黄金の15年」に変えるポイント
楠木新
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(1)イノベーションと価値創造
価値創造において重要なのは未来から現在を見るという視点
遠山亮子
日本のエネルギー政策大転換は可能か?(1)原発最大限活用の根拠と可能性
第7次エネルギー基本計画とは?原発活用方針の是非を問う
鈴木達治郎