●円安が続く日本、インフレ懸念の世界
今日は為替について、日頃考えていることをお話しさせていただきたいと思います。
ご案内のように、アメリカではインフレ懸念が非常に高くなり、アメリカ中央銀行が金利を上げていくだろうと予想されています。そのような中、日本は相変わらずのマイナス金利(ゼロ金利)の状態が続いています。これにより金利差が広がりますから、資金はドルに向かう。つまり、為替でいえば「円安」になる流れがずっとできていたわけです。
今般、ロシアがウクライナへ侵攻するという情勢となり、石油や天然ガスの価格がさらに上昇を続けるだろうというマークが強くなりました。そのため、主要国のインフレ懸念が高まり、アメリカだけではないと思いますが、特にアメリカの金利がさらに上がるのではないかという認識が広がっています。
最近の報道では、金利を上げることに非常に慎重だったはずのハト派の政策関連の方までが「タカ派に変身した」という表現がありました。アメリカの金融政策がタカ派的に動くほど金利が上がり、円安が進みます。ここにきてそのような形での為替が動きが見られ、今の時点(4月7日時点)でも120円から125円に近いところまで来ています。これは、われわれが再度きちんと考える時期にきているのだろうということです。
●実質実効レートが重要な理由
為替において非常に難しいのは、いわゆる名目レートと実質実効レートの間に大きなギャップがあるということです。
名目上の円ドルレートは毎日報道されているように、1ドル120円なり110円なり125円という流れです。一方、実質実効レートのほうは正確には実質実効(為替)レートといいます。実効レートのほうは、円ドルだけではなく円ユーロや円人民元など、いろいろな通貨と円の間の名目レートを平均的に出すということなので、それほど重要ではありません。ここに「実質」がつくとどうなるかというと、物価を加味して考えなければならなくなります。
ですから、例えば同じ1ドル=115~120円の場合でも、この間に日本の物価に比べてアメリカの物価が上がっていくと、実質実効レートはどんどん円安になるということだろうと思います。どのように上がるのかというと、実質実効レートでは物価も加味したレートで見なければいけないということです。
少し実感しにくいかもしれないので、具体的な例として同じ110円のレートに沿ってみます。
2015年頃だと思いますが、為替レートが110円だったのです。たまたまその時に一緒に食事をしたアメリカ大使館の公使が言っていました。彼はもう少し前(15年ほど前)の2000年頃(やはりドル円は110円ぐらいのとき)にも日本に赴任したことがある人です。当時、虎ノ門にある日本大使館付近で昼食を取った時、1000円ぐらいのランチを非常に高いと感じた記憶があったそうです。その頃、ワシントンでランチを安く食べようと思えば、おそらく5ドル程度で食べられたはずだったからです。
ところが、それから15年後の2015年頃にまたアメリカから日本へ赴任して、また虎ノ門の日本大使館近くでランチを取ると、やはり1000円だった。今度は彼は「なんて安いのだろう」と感じたのだそうです。この差がどこから来るのかというと、2015年ぐらいにアメリカのワシントンあたりでランチを取ると、おそらく20~25ドル取られるようになっていたからです。
つまり、同じ110円(=ドル)という日米の世界でも、2000年ぐらいにはアメリカ人が「なんて高いのだろう」と感じたのが、15年後には「なんて安いのだろう」と感じた。要するに、その間日本の物価は全く変化していないのに、アメリカの物価は50パーセントあるいはそれ以上に上がっていたということです。このように、物価の動きも加味して円とドルの強さを測ろうというのが、実質実効レートということになるのです。
●1970年代以来の円安に近づいている
インターネット上で簡単に見られますが、実質実効レートでみると円安が非常に進行しています。どのぐらい円安になっているかというと、過去50年でもっとも円安の状況に近づいているのです。50年前というと1970年です。
70年代を振り返ると、360円だった円ドルレートが1971年に308円に変わります。そして、1973年には為替制度が変動相場制に移行して、それ以降はどんどん円高が進みます。だから、1ドル=300~280円というのが70年代という時代だったのです。今はそれと同じぐらいに安くなっている。そう言われても、なかなかピンとこないかもしれませんが、実際そうなっています。
私は最近マクドナルドへ行っていないので分からないのですが、おそらくビッグマックが500円ぐらいで買えるのでしょうか(※編注:2022.5月時点での日本での価格は390円)。先日、スイスで仕事をしている...