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社会主義や共産主義の基本は善意だが、問題は失敗すること

マルクス入門と資本主義の未来(10)【深掘り編】社会主義・共産主義の基本と失敗

橋爪大三郎
社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授
情報・テキスト
古い経済理論は、単純化して組み立てられているので、現在の新しい経済状況のもとでも利用できる要素を見出すことはできるはずである。また、共産主義や社会主義という言葉は、ソ連崩壊以降ネガティブな意味を持ってしまった。政治的表現としては、異なる言葉を模索したほうが良いだろう。講義後の質疑応答編の最後に、橋爪氏が視聴者からの質問に回答する。(全10話中第10話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:07:41
収録日:2020/09/09
追加日:2021/02/25
≪全文≫

●古い経済理論も新しい状況を分析するための示唆を与える


―― 実は、視聴者の方から橋爪先生へのご質問をいただいていますので、お答えいただければと思います。まず一つ目の質問は、「新古典派をはじめとする最先端の経済理論の破綻が明らかになりつつある今、マルクスや『資本論』を媒介として、歴史的パースペクティヴを持つことの重要性について、先生はどのようにお考えでしょうか」というものです。今回のシリーズ講義を踏まえて、どのようにお考えでしょうか。

橋爪 先ほどお話ししたことと少し被りますが、ご容赦ください。「新古典派をはじめとする最先端の経済理論の破綻」とご指摘ありましたが、経済理論は必ず単純化の上に成立しています。分析したい点に焦点を当てて、それ以外は後回しにするというのが、尖鋭的な経済理論なのです。

 例えば、ケインズの場合、総需要が不足することによって失業が起こることが切迫した問題です。それに焦点を絞ると、有効需要が不足した場合、なぜ失業が引き起こされるのか、有効需要を上乗せするためにはどのような手段があるのか。それには、金利を下げるべきか、政府が公共投資を増やすべきか、などの論点に議論を集中させながら、システム全体を描きます。その場合、別の課題に関しては、機敏に対応できるほどの分析は行われていません。経済全体のバランスを取った考え方は、皆頭の中に持っているのですが、論文を書くなどして、そうした本を書いている時間がないのです。したがって、理論はいつも修正されているのであって、破綻しているわけではなく、新しい問題が出てきたということなのです。ですので、前の考え方に立ちつつも、議論を整理すれば対応できる場合が多いと思います。

 マルクスの『資本論』も近代経済学と同じ枠組みの中で、もう一つの議論として扱えば、他の理論と同様に、使えるところは使って、使えない部分は置いておくという態度で良いのではないでしょうか。

―― 今回のシリーズ講義でも、マルクス経済学自体が、問題を単純化する中で生まれてきた側面があるとご指摘があったと思います。

橋爪 近代経済学が破綻しているのであれば、マルクス経済学はもっと破綻しているのです。破綻していながらも、現代への示唆があるのです。また、新しい経済情勢は、既存の議論では解明できない新しさを必ず持っているので、それに合致した新しい考え方で対応していかなければなりません。どの時代でも、それは変わりません。


●ファイナンス理論は労働価値説とは何の関係もない


―― ありがとうございます。二つ目の質問は、「日本のビジネス社会では、ファイナンス理論に基づく企業の価値創造が、急速に主要なテーマとなりつつあります。この企業価値創造の問題を『資本論』の観点からはどのように整理できるのでしょうか」というものです。キーワードとして、絶対的剰余価値、相対的剰余価値、特別剰余価値と挙げていますが、いかがでしょうか。

橋爪 『資本論』の価値論は、労働価値説に従い、労働力のみが価値を生み、その価値が人々の間にどのように流れていって分配されていくかという議論です。ファイナンス理論における企業価値創造は、マルクスの労働価値説とは何の関係もありません。要するに、情報を得ることで利益を得るという現象論なのです。何の関係もありませんが、比較してみることで何か分かるかもしれません。


●「社会主義」に代わる言葉を探す必要がある


―― 最後の質問ですが、「私のような生来保守的な人間から見ると、左翼・リベラル派の人々の、ソビエト・ロシア型社会主義の大失敗についての反省や検証が甘いように感じます。この点についてご意見お聞かせください」とのことです。今回のシリーズ講義においても、民主集中制の問題や党の問題などについて言及されましたが、先生はソビエト・ロシア型社会主義の大失敗についてどのようにお考えでしょうか。

橋爪 (社会主義や)共産主義が失敗しているとすれば、善意で失敗しているのです。

―― 善意ですか。

橋爪 皆良かれと思って命を賭して革命に参加しているわけです。自分よりも人々の生活を重視した善意なのです。善意によって始まったのにもかかわらず失敗したケースは、難しいのです。悪意があるのであれば、反省するも何も、間違っていることは一目瞭然なのですが。

 社会主義共産主義の基本は善意なのですが、善意なのに失敗するという点が問題なのです。例えば、アメリカでは「社会主義」は悪口です。「社会主義者」というと、「ダメ人間」のようなニュアンスがあります。ドナルド・トランプ氏も、「反社会主義キャンペーン」を張って、バーニー・サンダース氏を「社会主義者」と罵ります。事実、彼は社会主義者ではあるのですが。「サンダースのような社会主義者に民主党は...
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