●人類の創造を生み出す根源的なイメージの力は神話にある
―― そもそも論として、各文化圏に神話があること自体が不思議な話ですよね。なぜそういった話を作らなければいけなかったのでしょうか。
鎌田 それは先ほど言ったように、生きるためですよ。
―― 生きるためなのですね。
鎌田 生き抜くためです。なぜかというと、私たちは苦しんでいるとき、生き抜いていくために、その出口を探していくわけです。出口を探していくときに一番のきっかけになるもの(力の根源、考え方の根源になるもの)が神話なのです。考え方の類型の根拠(拠り所)になっているのです。
神様がこのような苦しい目に遭っていた。天岩戸の前で太陽神が隠れてしまって世界が真っ暗闇になって冷却化してしまい、さまざまなパンデミックな災いが起こってきた。そのようなどうしようもないクライシスの中で、そのクライシスを切り抜けるために祭を行うことになって、その祭を通して光がもう1回再生していった――。
このような話を持つことによって、われわれの生きる力、発想の新たな展望・展開を生み出してくれる。ものの考え方、発明、発想、新しい地平の形成、新しい関係性の形成、新しいシステムの構築といったものを全て、神話が教えてくれている、神話が支えてくれているのです。
こうして神話がメッセージとして伝えてくれているものは、過去の人類の最大の知の遺産です。英雄神話であれ何であれ、われわれの世界がどんなに苦しい状況の中にあっても、もう1度ゼウスの神が金の雨を降らせてペルセウスがやってくる、ヘラクレスがやってくる、あるいはスサノオがよみがえる。そういった物語を持つことで、われわれが生きていくビジョン、勇気、探求心、忍耐心、さらなる冒険心といったものを持つことができる。それによって、その先に新しい世界が創造されていく。
だから、人類の創造を生み出す根源的なイメージの力は神話にあると、私は思っています。
●神話が「生きるためのエネルギー源」になっている
―― たしかにそうですね。冒険心といったものも含めて、全部込められているということですよね。
鎌田 例えば、アメリカという国はとても難しい国ですが、何が難しいのか。メイフラワー号に乗ってアメリカ東部のボストンあたりに着いた最初の人たちは、イギリスに住み続けることが苦しくて、新天地を求めていきました。彼らは新しい天国(エデン)を求めて、アメリカに渡っていったのです。「自分たちは新しい世界を切り開いていくというミッションを与えられている」といった意識を持っていたと思います。
そのあと、アイルランドなど世界各地からの移民が入ってきたりするのですが、奴隷貿易によって黒人奴隷が売買されてアメリカに入ってくる。一方、北米にせよ、中南米にせよ、もともと先住民の「インディアン」と呼ばれていた人たちが住んでいました。その先住民を虐殺して、アメリカ合衆国という世界を作っていくわけです。
彼らの中には何層もの神話がせめぎ合っています。もともとアメリカ先住民が持っていた神話が根幹にありました。そこへアングロサクソン系の人たちがやってきて、キリスト教的な神話観を通じて、そのフロンティア(新しいエデン)を創造し、アメリカを作っていきました。その時には先住民は虐げられていきました。そこへ途中から黒人奴隷がやってきたのですが、黒人奴隷は差別され使役されることで、アメリカの豊かさを作り上げていくときの労働力にされました。まさにメソポタミア神話における下級の存在としての人間、ロボットのような存在、奴隷のような存在としての扱いを受けていたのです。
しかし、アフリカの人たちは人類の祖先ともいえる、人類の一番の源ともいえる場所から来ているので、最も古い神話や儀礼などの物語要素を持っています。そういったものが、アメリカの中で三つ巴になっている。先住民の神話の世界、黒人の神話の世界、そして白人の神話の世界が折り合わさって、アメリカのエネルギーを作りあげていき、アメリカの生きる力を形成していくのです。
南米、中米、北米といろいろな層の違いがあり、さまざまな軋轢、差別、格差を生み出しつつも、神話がとてもダイナミックに折り合わさり、それらが彼らの新しい展望を作り出していくクリエイティビティになっていることは間違いないと思います。生きる力、活力のようなものになっている。それぞれの神話がそれぞれの時点でなければ、彼らは途中で滅亡してしまった、力を失ってしまったのではないでしょうか。
そういったことを考えれば考えるほど、神話は壊れるもの、なくなるものではなく、われわれの生存の糧になるエネルギー源として働き続けているな、と。どのような時代になっても、コロナの時代になっても、新しい技術、新し...