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ケア、エコロジー、ガバナンス、アート…現代へのヒント

大国主神に学ぶ日本人の生き方(2)大国主神の「4つの現代的意味」

鎌田東二
京都大学名誉教授
概要・テキスト
『悲嘆とケアの神話論ー須佐之男と大国主』(鎌田東二著、春秋社)
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われわれ現代の人間は大国主神について、どのような点を学べるのだろうか。大国主神の神話を通して得られる現代的意味として、鎌田氏は、ケア、エコロジー、ガバナンス、アートという4つの観点を提示する。けっして一方的ではなく、「助け、助けられる」関係としての「ケア」。熱帯化する日本で、サステナブルなあり方を再構築する「エコロジー」。対立と格差を超えて持続可能な統治を実現する「ガバナンス」。大国主神が持つ三種の神宝……生かすものとしての太刀と弓、そして神聖楽器の琴が象徴する「アート」。それぞれどのようなことなのか。具体的に解説する。(全9話中2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:39
収録日:2023/08/08
追加日:2023/12/17
キーワード:
≪全文≫

●ケア…一方的ではなく「助け、助けられる」関係


―― では最初に先生にお聞きするのは、そもそも大国主神の全体的な性格はどのようなものか。その部分をぜひお聞きできればと思います。

鎌田 この『悲嘆とケアの神話論ー須佐之男と大国主』という本の中で、最後の結章の第6節「痛みとケアの神としての大国主神」において、4つの現代的な意味合いを大国主神からくみ取る、といった捉え方を提示しました。

 現代的な課題としては、まず第1に「ケア論」の観点があります。コロナウイルスに苦しんできた私たちにとって、老齢者が亡くなっていくケースが非常に多かった。ですから、医療、看護、介護、ケアは非常に重要なテーマとして、より切実になってきたわけです。

 そしてその際に、「助ける・助けられる」「ケアする・ケアされる」という行為は、決して一方的ではない。

―― 一方向ではないのですか。

鎌田 ケアする側が相手のレスポンスや対応によって、ケアされることもある。例えば優れた教師は生徒から多くを学びます。

 つまり、生徒に教えるという一方的、一方向的なことで終わるわけではなく、生徒からのレスポンスによってどれだけ深いことを学び取り、またさらにその生徒にフィードバックできるかということが、優れた教師の有り様の典型だと思います。

 まさに大国主はそのような神様で、「ケアする・ケアされる」という授受関係、応答関係をうまく循環させているのです。このケア循環といったものの形成は、非常に大きな意味があります。


●エコロジー…熱帯化する日本?サステナブルなあり方の再構築


鎌田 第2番目として、現代の自然災害の頻発を見ても、人間が作り上げていった文明の負の遺産によって、地球環境はここまで異様な形で歪んできています。「ホメオスタシス(生体恒常性)」のようなものはほぼないといえるような状態です。

 私は今日(収録日:2023年8月8日)、京都から新宿に来ましたが、東京駅に降り立って新宿まで来る間に「もう日本は熱帯になったな」と思いました。

―― そうですね。

鎌田 本当に熱帯雨林の中を歩いているかのようです。タイや沖縄のほうが乾燥しているので、まだ過ごしやすいのではないか。この湿気の中でこれだけの暑さがある。この湿度と暑さは、やはり異様な状態です。こういった状態が、...
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