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「むすひ」「修理固成」…古事記のキーワードと大国主神の力

大国主神に学ぶ日本人の生き方(4)「むすひ」と「修理固成」の力

鎌田東二
京都大学名誉教授
情報・テキスト
『悲嘆とケアの神話論ー須佐之男と大国主』(鎌田東二著、春秋社)
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『古事記』における重要な2つのキーワードに、「むすひ」と「修理固成」がある。世界神話には見られない日本神話の特徴でもあるこの2つは、どういったものであるか。また、この2つがもたらす天壌無窮の「終わりなきダイナミズム」とは。さらに、これらが大国主神のもつ健康と癒しのわざである「なおす力」にもつながっていくことを解説する。(全9話中4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:44
収録日:2023/08/08
追加日:2023/12/31
≪全文≫

●『古事記』の重要な2つのキーワード


―― その大国主神の背景になるものとして、「むすひ」と「修理固成」があります。この2つは、これまでの講義でもお話しいただいています。

鎌田 そうです。キーワードでしたね。

―― すでにお話しいただいているので、ここでは簡単にご説明いただくと、どういうことになるでしょうか。

鎌田 今までの日本神話の、特に『古事記』におけるメッセージのキーワードを2つ挙げよと言われれば、私は「むすひ」と「修理固成」を挙げます。「修理固成」をどう読むかはいろいろな説があるのですが、「おさめ、つくり、かため、なせ」と岩波文庫では読んでいます。それに従って見ていきます。

 「むすひ」とは根源的な生成力で、その生成力は先ほど言ったような創造も生み出すけれども、破壊的な部分、死の部分をも含み持ちます。だけれども、その後もさらに創造、生成を続けていく。この根源的な生成の力が、生存の基盤にある、存在の基盤にある。

 では、それをどうやって運営していくか(託された運営の有り様)。農業をするためには種が必要だし、それを育てる水が必要だし、いろいろなやり方や創意工夫があるでしょう。「修理固成」とは、まさにその創意工夫の有り様です。だから、それはテクノロジーでもあり、1つの作法でもあり、儀礼のようなものなど、いろいろなものを含みます。そして、それはある種の生存の哲学に則りながら、生存の戦略として編み出されてくる。メソッドやテクノロジーなども含みます。それが「修理固成」という言葉になる。

 つまり私たちに、「この世界はどのような状態になっていても修理できる。作り直せ、固め直せ、修め直せ」といっている。要するに、なおす(リコンストラクション、リプロダクション)、再び新たにそれを甦らせる、あるいは甦らせることができなくても再構築(リメイク)していくことができる。

 映画などでもリメイクされたカバー曲などがあるでしょう。神話にもいろいろなメッセージがあって、伝わっていくということはリメイクできるからなのです。そのリメイク力がないと、生き延びられないのです。

 「同じものを同じ形で」というのは、創業者が替わって2代目、3代目はできません。でも、うまくリメイクしていけば、それは続いていく。できなければ、そこで途絶えてしまいます。

 そういったリメイク力が「修理固成」になって、どのように修め直すか、作り直すか、固め直すかを実践しなさいということを教えてくれる。これが『古事記』における2つの生存戦略、あるいは生存哲学といえると思います。


●日本神話の「終わりなきダイナミズム」


―― 「むすひ」の生成力にしても、「修理固成」のあり方にしても、非常に動的ですよね。固定的ではなく、どんどん動いていくということですね。

鎌田 そうです。例えば、神が天地を創造して人間に委ねるとなれば、ある意味で運営の能力全てを委譲していくわけです。日本神話の特徴は、神も生成力の一翼を担っているということです。根源的な力は、1神でもあり多神でもあるといえると思うのですが、アメノミナカヌシノカミという根源にある力が、2つに分割・分裂しつつ作用し合って、そしてさらに陰陽五行八卦のように、どんどん増殖していく、拡張していく。そういった根源的な「むすひ」の力の中に、先ほど言った負の部分、死の部分も次々と含み持って、さらに再構築(リメイク)ができていくわけです。

 だから、最初から最後の最後までダイナミズムです。一貫して宇宙の根源的なダイナミズムは変わらない。初めがあって終わりがあるというよりも、そもそも存在はそのダイナミズムの中にずっと貫かれているといったほうがいい。

―― 終わりなきダイナミズムである、と。

鎌田 だから、人間が滅んでも心配ない。これで絶対終わりではない。いろいろなつながり、つなぎがあるのだということを教えていると思います。

―― これは世界神話と日本神話との比較の講義で鎌田先生に教えていただいたことでもありますが、終末論がある世界神話と、日本のように天壌無窮でずっと続いていく神話という、非常に大きな特徴があるということでした。

鎌田 そうですね。日本神話は最初から最後まで無窮。お金もないけれども無窮。でも命は無窮につながっていく。

―― 極まりなく行くということですね。

鎌田 なぜ命が芽生えてきたのか、存在がどうやって生まれてきたのか――。無から生まれてきたのか、という考え方ももちろんあるのですが、無から生まれたら終わりがあるだろう、終末があるだろうと普通は考えます。けれども、本当に始まりもなく終わりもなく、何らかが続いてきている。では、始まりもなく終わりもないとはどういうことなのかと考えると...
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