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大国主神が詠んだ歌…『古事記』の歌の意味と縁結びの力

大国主神に学ぶ日本人の生き方(8)求婚の歌と縁結びの力

鎌田東二
京都大学名誉教授
概要・テキスト
『悲嘆とケアの神話論ー須佐之男と大国主』(鎌田東二著、春秋社)
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大国主神の歌は『古事記』上巻の中で最も多く掲載されている。はたして、どのような歌をうたっているのか。今回はその歌の数々をみていく。大国主神が詠んでいる求婚の歌を見ていくと、いかに相手の気持ちを汲み取る力のある、忖度のできる神であるかが見て取れる。鎌田氏が「古事記の中でもっとも格調高い歌を歌っている」と述べる大国主の歌の力とは「縁結びの力」だという。(全9話中8話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:16:17
収録日:2023/08/08
追加日:2024/01/28
≪全文≫

●『古事記』では求婚の歌が多く交わされている


鎌田 最後の最後に、大国主が実際に『古事記』の中でどのような歌をうたっているかについて、まとめていきたいと思います。

 『古事記』上巻の中で大国主の段がもっともたくさんの歌が交わされます。長い歌です。

 その中の要点をいいますと、大国主の求婚の歌なのです。恋歌です。

 「八千矛の 神の命は 八島国 妻枕きかねて 遠遠し 高志国に 賢し女を ありと聞かして 麗し女を ありと聞こして さ婚ひに あり立たし ……」

 というように歌うのです。

 自分のことを「八千矛の神」という。妻を求めている。妻を求めることは国を繁栄させていく一番の源です。どのように豊作にするかということが、生存にとって、むすひの力にとって、重要になります。そうすると、縁結びの神様も様々な縁を結んでいく。その1つが恋という形で子どもを作るということにもなり、それが様々な豊作や豊穣にもつながっていく、といった論理と構造になるわけです。

 賢し女(賢い女)がいると聞いたら、その賢い女性のところへ行って呼びかけ、そして子どもをもうける。そうすることによって繁栄を、次の命へとリレーをしていく。そのようなことを歌うわけです。

そして、「高志(越)国の賢し女」で「麗し女」が、ヌナカワヒメ(沼河比売)だった。糸魚川の翡翠を付けた、資源を持つ土地の重要な姫神です。それに対して、ヌナカワヒメがどのような歌を歌ったか。2首、歌います。

 「八千矛の 神の命 ぬえ草の ……」

 これは「八千矛の神様(あなた/大国主)に対してしおれた草のような私のことですから」と、やや控えめに語るわけです。もう1つが、「青山に 日が隠らば ぬばたまの 夜は出でなむ ……」という歌です。

 ここで重要なのは、2つの歌の最後が「天馳使 事の語り言も是をば」と「八千矛の 神の命 事の語り言も是をば」とあることです。

 ここで、大国主(八千矛)がうたった最初の歌に戻りましょう。

 ここに、「天馳使(あまはせづかひ) 事の語り言も是をば」とあります。

 この「事の語り言も是をば」を、冒頭(第1回)で話した「琴を弾きながら語り事をして、そして言霊の歌を届け...
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