●出雲神話が手厚い『古事記』
鎌田 オオクニヌシの話も浮沈といいますか、山あり谷ありです。話は少し横道にそれますが、オオクニヌシは多くのお兄さんたちがいます。スサノオノミコト(スサノオ)が荒ぶる神で日本で最強の神様だとすれば、その子孫のオオクニヌシは最弱の神様です。
―― 弱いのですね。
鎌田 なぜ弱いかというと、お兄さんの神様がたくさんいて、お兄さんたちに平身低頭するからです。メソポタミア神話の下級神のように労働の役割を与えられて、荷物を背負って後からお兄さんたちにかしずくようにしている。それも、気だてがいいというのか心優しいというのか、嫌な仕事を全部引き受けていく。
当時、オオナムチノカミ(後のオオクニヌシ)は求婚に行くのですが、その途中に因幡の白ウサギがいました。いろいろなエピソードがあるのですが、因幡の白ウサギは傷ついて、苦しんでいた。お兄さんたちは「海の塩水で洗って、風に吹かれていたら治るよ」という間違った治療法を教えます。ウサギはその通りにして、よりいっそう傷口がヒリヒリして拡大してしまった。
そこへ最後に、お兄さんたちの荷物を持ったオオクニヌシが行き着く。そして、その間違った治療法を改めて、真水で傷口を洗って、蒲(がま)という植物の粉をつける。そうして、そよそよとした風に吹かれていると治ってしまった。そのような癒しの神、医療神のような神格も発現した。
また、彼だけが姫のプロポーズに成功したりして、お兄さんたちに恨まれて2度も殺されています。2度殺されても、お母さんたちのムスヒの働きで復活しています。
スサノオは、オオゲツヒメノカミなどいろいろな神様を殺したりもしています。機織り女はスサノオが直接殺したわけではないけれども、スサノオが原因で死んでしまう。だから、スサノオは荒ぶった暴虐の、死をもたらす破壊性のある神なのですが、オオクニヌシノカミは逆に、恨みを買ってお兄さんたちに殺される。でも、そのままではなくて、お母さんたちの庇護、愛によって生まれ変わらせられる。
その結果、自分の先祖であるスサノオの根の国へ行き、妻となるスセリビメという女性を得ます。そのスセリビメは、スサノオの娘です。スサノオの娘が、スサノオが持っている三つの神宝(かんだから)である生太刀(いくたち)、生弓矢(いくゆみや)、天詔琴(あめののりごと)を奪いま...