●スサノオの乱暴狼藉で世界危機に
鎌田 スサノオ(スサノオノミコト)の持っていたものは十握剣(とつかのつるぎ)です。それをアマテラスオオミカミに渡して、アマテラスはそれをカリカリと口中で噛んで、そして飛沫(息)とともにサーッと吐く。すると、タキリヒメ、タゴリヒメ(タキツヒメ)、イチキシマヒメといった宗像三神といわれる女神が出る。自分の持ち物(物実)から三柱のうるわしい乙女の神が生まれてきたので、スサノオは「自分の心は優しく、国を奪おうという邪な気持ちはない。それが証明された」と言い、勝ったとします。
スサノオは、自分の心が清らかで、邪でないことが証明されたと言って大喜びし、勝ちどきを上げて、いろいろな乱暴狼藉を働きます。乱暴狼藉をしたために、アマテラスオオミカミは岩戸にさしこもってしまった。このようなスサノオ像が描かれています。
スサノオが最後に行った乱暴狼藉が、「天の斑駒(あめのふちこま)」という馬の皮を逆剥ぎにし、血だらけにして、その馬を、アマテラスオオミカミを含め神々に献上するための神聖な神御衣(かんみそ)――いわゆる衣を織るための神聖な機織り場――に投げ入れた。すると皆が驚いて、アメノハタオリメ(若い機織り女)が針でホト(女性器)を突いて、亡くなってしまった。それを怒り悲しんで、アマテラスオオミカミが岩戸に隠れてしまったために、世界が真っ暗になって生存の危機になってしまった。
地球の危機ですね。光がなくなる、太陽がなくなるのですから。地球上の全ての熱が失われた状態になり、パニックが起こって、さまざまな悪神の災いが起こります。感染症であったり、いろいろなことが実際に起こるということです。冷害で食べるものももちろんなくなるでしょうし、あらゆるものが死滅してしまうという最大の危機に陥った。
そのときに、神々が天安川(あめのやすかわ)に集まり相談して、ここで祭を行おうとなりました。祭によってアマテラスオオミカミにもう1度復活してもらおう、と。
そのための祭の手立てとして、忌部氏が神籬(ひもろぎ)を立てて、玉、鏡、四手(しで)などを飾り付け、そして中臣氏、藤原氏の祖先であるアメノコヤネノミコトが厳かに「掛けまくも畏き 伊邪那岐大神(かけまくもかしこき いざなぎのおおかみ)」「掛けまくも畏き 天照大御神(かけまくもかしこき あまてらすおおみかみ)」といった祝詞を奏上する。アマテラスを喜ばせるための鎮魂の業として、アメノウズメノミコトが手に笹を持って踊っているうちに、神懸かりになって、ムナヂ(胸乳)を露わにし、ホト(女陰)を露わにした。そのために神々は大笑いした。
賑々しく皆が楽しそうにしているので、「自分がいなくなって皆が悲しんでひっそりしているはずなのに、なぜこんなに楽しそうなの」と、アマテラスオオミカミが顔を出したら、そこから光が一筋漏れた。その光を鏡に反射させ、「これはいったいいかなる神ぞ」と、いわばトリックのようなことをして、アマテラスオオミカミをアメノタヂカラオがさっと引っ張り、岩戸を閉めた。そして、「もうそこに戻らないでください」と言って、アマテラスオオミカミは復活した。
このような日本復活の物語が語られ、そして世界に命がよみがえったという話になるわけです。
●文化の根源となったスサノオ
鎌田 命がよみがえって世界の危機が救われた後、スサノオは追放されます。その後、スサノオはヤマタノオロチを退治して、その退治したヤマタノオロチの尾から天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)を発見する。それを、お詫びのつもりなのか、アマテラスに献上します。その献上した剣がニニギノミコトに渡り、それが今に至る天皇家の三種の神器の一つ、草薙剣(くさなぎのつるぎ)として伝わってきている。そのような伏線になるので、スサノオの役割はとても重要でしょう。
―― そうですね。キーマン中のキーマンですよね。
鎌田 接着剤なのです。世界を展開させていく破壊的な役割を果たすと同時に――スクラップ・アンド・ビルド――つくり上げていく役割も果たす、一番のキーとなる神様です。
そしてスサノオが、ヤマタノオロチに食べられそうになったクシナダヒメを助けます。そしてヤマタノオロチを退治して、クシナダヒメと結婚し、自分の心が初めて晴れ晴れと、清々しい気持ちになった。その気持ちを「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」という歌に詠みました。自分の心の解放、喜びを歌に託した。これが日本の和歌、大和歌の始まりだという記録があるのです。
日本の歌をも生み出したのがスサノオですし、スサノオが原因となって祭が行われました。スサノオ自らが祭を行ったわけではないけれど、スサノオの起こしたことによって祭が編み出されたことになるので、スサ...