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聖徳太子虚構説こそ間違い…その存在の世界史的意義とは?

聖徳太子「十七条憲法」を読む(3)聖徳太子の謎とその存在意義

賴住光子
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授
情報・テキスト
聖徳太子とはいったいどのような人物なのか。「聖徳太子はいなかった」という虚構説も飛び交うが、それは本当なのか。十七条憲法の作者と目される聖徳太子の謎に迫っていく第3話。日本を氏族社会から脱皮させ、統一国家として成立される方向づけをした人物で、日本初の思想家といってもいい聖徳太子。実は、「聖徳太子虚構説」については専門の歴史家からいろいろと反論が出てきている。それはどういうことなのか。世界史的にみた聖徳太子の存在意義とともに解説する。(全6話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:14:03
収録日:2023/08/24
追加日:2023/12/21
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≪全文≫

●日本初の思想家・聖徳太子の存在意義


―― その(前話までに紹介いただいた)ような内容の十七条憲法ですけれども、それをまとめられた聖徳太子という方はどのような人物なのかということです。この方も非常に謎に満ちた人ですが、頼住先生ご専門の日本思想史の文脈で位置づけると、どういう位置になるのでしょうか。

賴住 そうですね。聖徳太子については、今もおっしゃってくださいましたように、虚構説などというものもいわれたりすることがありまして、いろいろ分からない部分が多い方です。

 後でもう少しお話ししたいと思いますが、私自身は実在の人物であろうと(考えています)。聖徳太子という名前自体は、後から付けられた名前であると思いますが、後の時代に聖徳太子と呼ばれた飛鳥時代の政治家・思想家という方は、確かにおられると考えています。

 それを前提として、聖徳太子という方は日本の国を氏族社会から脱皮させ、独立した一つの統一国家、一つの天下として成立される方向づけをした人物ということができます。

 特にその著作とされている「十七条憲法」や『三経義疏(さんぎょうぎしょ)』(※法華経、勝鬘経、維摩経の解説書である『法華義疏』『勝鬘経義疏』『維摩経義疏』の総称)ですね。三経義疏にもいろいろ説がありますが、聖徳太子がまったく関わっていないとはいえません。その関わり方はいろいろな説がありますが、関わっていたと私自身は考えています。

 この十七条憲法や三経義疏などからもはっきり見てとれるように、外来仏教、さらに儒教から学んだ人間観や世界観というものを明確に示した。その意味で、日本初の思想家といってもいいでしょう。

―― そうすると、思想史、特に日本思想史の中では本当に最初に位置づけられる人物だということですね。

賴住 そうですね。重要な存在だと思います。


●聖徳太子の世界史的意義…「普遍的国家」の形成者として


―― なるほど。その聖徳太子は、日本だけではなく東アジアの状況なども受けてこういうことをやってきた、というお話を前半で伺いました。世界史的に見た場合は、聖徳太子の存在にどのような意義があったと先生はお考えでしょうか。

賴住 聖徳太子の世界史的な意義という問題については、仏教学者であり比較思想家である中村元先生が非常に興味深いことをおっしゃっています。少し紹介しますと、聖徳太子の世界史的な意義として、中村元先生は「普遍的国家の形成」を行った人だということを強調なさいます。

―― 「普遍的国家」というのはどういう国家ですか。

賴住 これは中村先生がご自身の著作の中で繰り返していわれていることですが、民族の差異や時代の差異を超えて実現すべき普遍的な理法、そういうものが存在しているということを確信して、その確信をしている帝王が建設した国家のこと。これを「普遍的国家」と中村先生は定義されています。

―― もう少し具体的なイメージとしては、どういう位置づけになるのでしょうか。

賴住 そうですね。世界史的に見てみますと、例えば中村先生がいわれているのですが、古代には普遍的な国家がいろいろな地域で成立しているということです。諸部族が政治的・軍事的に対立する氏族制の社会から統一国家が立ち上がってくる流れの中で、普遍的な国家というものが成立してくるというのが中村先生のお考えです。

―― はい。

賴住 氏族が相争っている中から統一するときに、ただ単に軍事的に強い人がその上に立つというのではなく、上に立つ人が普遍的な理法というものを体現し、それによってその地域なり国なりを統一していく。そういうことになるわけです。

 具体的に見ていきますと、中村先生が挙げていらっしゃるのは、例えば西洋で典型的なのがカール大帝です。(フランス語読みでは)シャルルマーニュですけれども、だいたい8世紀から9世紀にかけての方です。フランク王国の国王であり、もともとの領土は現在のフランス近辺にあったのですが、西ヨーロッパ全体に自分の領土を広げたことから、「ヨーロッパの父」などとも呼ばれます。偉大な帝王といわれている人ですが、ただ単に西ヨーロッパを統一しただけではなく、キリスト教をヨーロッパ全土に広げた人でもあったわけですね。

 それまでは、例えばゲルマン人だとか自分たちのそれぞれの氏族の神々を信じている状態から、みんながキリスト教を信じるようになったということです。キリスト教は普遍宗教といわれていて、特殊な民族だけではなく、あらゆる人たちがその教えによって救われるということを説く。そういう意味で普遍宗教ないし世界宗教といわれているのですが、そういう世界宗教を信じることによってその地域を統一す...
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