●日本初の思想家・聖徳太子の存在意義
―― その(前話までに紹介いただいた)ような内容の十七条憲法ですけれども、それをまとめられた聖徳太子という方はどのような人物なのかということです。この方も非常に謎に満ちた人ですが、頼住先生ご専門の日本思想史の文脈で位置づけると、どういう位置になるのでしょうか。
賴住 そうですね。聖徳太子については、今もおっしゃってくださいましたように、虚構説などというものもいわれたりすることがありまして、いろいろ分からない部分が多い方です。
後でもう少しお話ししたいと思いますが、私自身は実在の人物であろうと(考えています)。聖徳太子という名前自体は、後から付けられた名前であると思いますが、後の時代に聖徳太子と呼ばれた飛鳥時代の政治家・思想家という方は、確かにおられると考えています。
それを前提として、聖徳太子という方は日本の国を氏族社会から脱皮させ、独立した一つの統一国家、一つの天下として成立される方向づけをした人物ということができます。
特にその著作とされている「十七条憲法」や『三経義疏(さんぎょうぎしょ)』(※法華経、勝鬘経、維摩経の解説書である『法華義疏』『勝鬘経義疏』『維摩経義疏』の総称)ですね。三経義疏にもいろいろ説がありますが、聖徳太子がまったく関わっていないとはいえません。その関わり方はいろいろな説がありますが、関わっていたと私自身は考えています。
この十七条憲法や三経義疏などからもはっきり見てとれるように、外来仏教、さらに儒教から学んだ人間観や世界観というものを明確に示した。その意味で、日本初の思想家といってもいいでしょう。
―― そうすると、思想史、特に日本思想史の中では本当に最初に位置づけられる人物だということですね。
賴住 そうですね。重要な存在だと思います。
●聖徳太子の世界史的意義…「普遍的国家」の形成者として
―― なるほど。その聖徳太子は、日本だけではなく東アジアの状況なども受けてこういうことをやってきた、というお話を前半で伺いました。世界史的に見た場合は、聖徳太子の存在にどのような意義があったと先生はお考えでしょうか。
賴住 聖徳太子の世界史的な意義という問題については、仏教学者であり比較思想家である中村元先生が非常に興味深いことをお...