●メソポタミア神話は「人類史上の神話的原点」だといえる
―― 皆さま、こんにちは。
鎌田 こんにちは。
―― 本日は鎌田東二先生に、メソポタミア神話についてお話をうかがいたいと思います。
先生、どうぞよろしくお願いいたします。
鎌田 よろしくお願いします。
―― メソポタミア神話というと、人類史上でも、そうとう昔のほうの神話ということになりますね。
鎌田 おそらく人類史上の神話的原点といえるものが、このメソポタミアの神話だと思いますね。
―― もう原点というイメージですか。
鎌田 これが人類史上で最も古いものとして残っているテキストなのです。
―― なるほど。
鎌田 そのため、この影響力は非常に大きく、また、私たちが神話を理解するための重要な手がかりとなっています。それこそが、メソポタミア神話なのです。
―― では、具体的にお伺いしてまいります。まずは総括的なあらすじや、その構造について教えていただけますか。
鎌田 これは、簡単にまとめきれるようなものではなく、かなり難物です。それを理解するためには、創造神話として、まずは3つの起源――すなわち宇宙の起源、世界の起源、それから人類の起源をどう語っているか。それから文化の起源。そして、死後の世界をどのように描いているか、という切り口から見ていく。
複雑で多様な伝承が伝わっているのですが、それらは全て楔形文字で粘土板に書かれています。
古代シュメールの神話から始まり、アッカド語などいろいろな言葉で伝わっていって、アッシリアや周辺諸国へ、エジプトとの緊張関係もありつつ、のちにはギリシア、そして一部にはアジアにも伝わっていきました。これが人類の神話の発祥にも関わっているともいえるメソポタミア神話です。
●メソポタミア神話の神々と人間の起源
―― 今のお話からは、複雑な神話の中で最初に語られるのは、宇宙や世界の始まりということでしたが、どのようなお話なのでしょうか。
鎌田 この世界の始まりには、たくさんの神々がいる。例えば天空の神、大気の神、水の神、愛と豊饒の神、太陽の神、月の神、大地母神、戦いの神と、さまざまな神々がいます。これらの神々は、エジプトにも似たような神がいるのですが、アンとか、エンリルとか、エンキとか、日本の人たちにとってまだなじみのある名前は「イナンナ」という女神でしょうか。「イシュタル」という名前でも登場してきます。
川上さん、イナンナとかイシュタルというのは聞いたことがあるでしょうか。
―― 私、イナンナは初めて聞きますが、イシュタルはどこかで聞いたことがあるような気がします。何か神像があったような気がします。
鎌田 はい、女神の神像ですね。このイナンナ、イシュタル神話は、かなり深く重要な要素を持っています。そういった神々の、愛と闘争の物語なのです。
神々がさまざまな世界を創造していくときの1つの重要な原点として、性的な関係があります。これは神々の近親相姦ともいえるような性的な結合です。最初の神々は、きょうだいみたいなものであったり、親子であったりするものですから。そのような近親相姦の中から、次の創造的な神々の展開というようになっていきます。
これは初期のギリシア神話にも当てはまりますし、日本でも、イザナギ・イザナミの神様は、ある種、きょうだい的な神様です。兄と妹に当たるのか、姉と弟に当たるのか、よく分かりませんが、そのようなペア神になる者は兄弟のような関係を持っています。
こういった神々の性的な結びつきを媒介にしつつ、さまざまなものを生み出し、創造していく。これが一つ、源になっています。
―― 続いて、人間の始まりについてお聞かせいただけますか。
鎌田 人間の始まりについては、以前、日本の神話と世界神話を比較したときにもお話しましたが、日本では人間は神の子孫という考え方があります。ですから、天皇家の先祖にあたるのは天照大神(あまてらすおおみかみ)であり、藤原氏や中臣氏の先祖は天児屋命(あめのこやねのみこと)といったように、人間的世界と神話的世界の間に(もちろん世代交代はありますが)血のつながりという連続線があるわけです。
これに対して、メソポタミア神話は決定的に違っています。どこがどう違っているかというと、神様が人間を創造するのですが、人間を何のために創造したかというと、色々な伝承があるのですけれども共通していえるのは、「人間は神の身代わりであり、労働者である」ということです。
現代では、私たちはAIやロボットを使ったりする社会構造になっていますが、そのロボットに近いものとして、人間が創造されたのです。ここが、人間の位置づ...