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世界の英雄神話に共通する「異常出生物語」の不思議

古事記・日本書紀と世界神話の類似(3)英雄神話の特性

鎌田東二
京都大学名誉教授/上智大学大学院実践宗教学研究科特任教授
情報・テキスト
世界神話のパターンの1つに英雄神話がある。その英雄神話に共通するのが、現在の常識では考えられない、不思議な「異常出生物語」である。英雄の出生秘話について、世界神話から類似のポイントを読み解いていく。(全10話中3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:12
収録日:2021/09/29
追加日:2022/04/03
キーワード:
≪全文≫

●英雄神話に共通する「異常出生物語」


鎌田 もう1つ、類似の物語としてペルセウスの話をしておきましょう。ペルセウスの英雄神話をどのように読まれていますか。

―― 一種の冒険譚でもありますし、課題を次々と与えられて、それをクリアして大きくなっていくイメージでしょうか。神話によくあるパターンなのかなと思って読んでいました。

鎌田 2回目のシリーズ講義(神話の「世界観」~日本と世界)の中でジョセフ・キャンベルの話をしました。日本の神道とは踊りの世界のようなものだ、ダンスをしている世界のようなものだ、宇宙のダンスを表現する世界だ、と。

 このジョセフ・キャンベルの有名な研究に英雄神話があり、それがあの『スター・ウォーズ』にも大きな影響を与えています。そういった英雄神話のパターンに、難題解決の過程があります。先ほど(第1話)のオオクニヌシについても、スサノオが難題を与え、その難題をクリアしていくイニシエーション・ストーリーなのです。

 イニシエーションとは、例えば子どもが大人になっていく、あるレベル・位階に到達する、あるいは入学試験や入社試験に合格して新しい組織に入る、または新しい地位を得る、新しい資格を得る、といったことです。そういったイニシエーション・ストーリーを英雄神話は持っています。

 ペルセウスの英雄神話も、課題解決型のイニシエーション・ストーリーの性質を持っています。

―― しかも、生まれの部分ですでに英雄になるべき要素が仕込まれているところがありますね。

鎌田 これは世界中の偉大な宗教家にいえることで、例えば、空海も空海伝説(弘法大師伝説)の中で不思議な「異常出生物語」を持っています。お釈迦さまには、摩耶夫人(母親)が自分の中に白象が入ってくる夢を見て、脇から生まれ、また生まれた途端に7歩歩いて、「天上天下唯我独尊」と言ったという話があります。これは異常であり、考えられないですよね。

―― (笑)不思議な出来事ですね。

鎌田 イエス・キリストの誕生については、マリア様が処女懐胎し、キリストが生まれてくる、聖霊によって身ごもるなど、どう考えても合理的ではありませんし、理解できません。神はこの天地を創造するほどの力があるので、そのような奇跡を起こして神の威力を示すことができる、といった極限思考からすれば可能な物語なのだけれど、われわれの通常の経験的・理性的な思考からはあまりにも超理性的な考え方です。

―― 普通ではない話ですね。

鎌田 神秘そのものですね。そういった英雄の異常出生物語が、ペルセウス神話やヘラクレス神話など、いろいろな英雄神話にはつきまとっています。英雄神話的なストーリーが、世界のいろいろな諸宗教や偉大なことを成し遂げた人の出生譚の尾ひれ羽ひれがついた物語・伝説にはくっいているのです。


●人間世界を霊的にバックアップする物語


―― ペルセウスの場合を解説いただくと、もともとはダナエという母親がいました。

鎌田 はい、母親がダナエです。私はオーストリアで19世紀末に活躍した、ウィーン分離派のクリムトが好きで、そのクリムトの展覧会が東京であった時、本当に楽しみで観に行きました。神話的な素材をいくつか取り上げたものや、金色を使った美しいキラキラとした絵など、非常に耽美的というか、装飾性と美的な感覚があって大好きです。そのクリムトに、『ダナエ』という、まさにペルセウスの母を描いた絵があります。

鎌田 ご覧になったことはあるでしょう。ダナエが横たわっているところに金の雨が、ダナエの身体、特に股間のところにザーッと降り注いでくるという、エロティシズムと豊かなダイナミズムのようなものを感じさせる絵です。ギリシア神話の中にもそのような場面が描かれていて、ゼウスという神様が金の雨に化身して、ダナエとの間で産み落としていった子どもがペルセウスになっていきます。

―― ダナエは閉じ込められていたわけですよね。

鎌田 はい。そのため、神は姿を変えるしかなかったということです。このような異常出生、異常婚姻といったパターンは世界の神話の中にも割とあります。

 日本の神話での類似のパターンとしては、次のようなものがあります。三輪のオオモノヌシノカミが、丹塗矢(にぬりや)に変身して川を流れていく。厠で糞をしているセヤダタラヒメ(『古事記』の中では「その美人(おとめ)の大便(くそ)まる時に」と書かれます)という非常に美しい女性を見初めて、丹塗矢になって、ほと(性器)を突いたのです。

 丹塗矢が自分のほとを突いたので、セヤダタラヒメは慌ててそれを家に持ち帰って床のべに置くと、丹塗矢は麗しい男になって、結ばれて子どもができます。その子どもは女の子で、ホトタタライススキヒメと名...
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