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ユング的な生得説の可能性――深層心理に神話の原型がある

古事記・日本書紀と世界神話の類似(5)2つの類似要因

鎌田東二
京都大学名誉教授
概要・テキスト
世界神話の類似には2つの要因が考えられる。一つは経験論的な「神話伝播説」で、もう一つがユング的な考え方による「生得説」だ。なぜ人類が違った場所で違った時代に同じ夢を見るといった、シンクロニシティのようなことが時空間を超えて起こるのか。その意味と、両者の可能性について考える。(全10話中5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:13:21
収録日:2021/09/29
追加日:2022/04/17
≪全文≫

●ギリシア神話に影響を与えた巨大文明


―― 人類はアフリカ大陸から出発するので、当然日本人の始祖もかつてギリシアを通ってきた。いってみれば日本に来る過程で神話の原型となるものがすでにあって、それを持ちながら移動していったということですか。

鎌田 一番古い神話が地球の隅々まで行ったかどうかは分かりません。けれども、ある段階で古いものを新しくリニューアル(リノベート、上書き)した神話が、いろいろな形でいろいろな地域に残され、あるいは作られて、伝承していったのです。

 巨大な神話としてはまずエジプト神話です。エジプト文明のスフィンクス、あるいはピラミッドなどといったものを支えた神話体系があります。また、メソポタミア文明にはジグラット(神殿聖塔)を中心にした神話体系がある。エジプト神話とメソポタミア神話は巨大文明の神話体系で、王権と結びついています。

 その狭間にあって、ユダヤ人(ヘブライ人)たちの神話が『旧約聖書』として独自に登場する。この『旧約聖書』の神話も、エジプト神話とメソポタミア神話の影響を受けながら独自の構造を作り上げてきています。

 またギリシア神話ですが、ギリシアは地中海を隔ててエジプトのアレクサンドリアから目と鼻の先にあるでしょう。



―― しかも間は海ですから、比較的行き来しやすいですね。

鎌田 地中海は太平洋のような荒海ではありませんから、頻繁に交流、交換はあっただろうと推定できます。そうすると、エジプト神話がクレタ島などを通ってギリシア本土に伝わっていくことも十分あり得ます。それから陸路で、コンスタンティノープルなどを通ってメソポタミア(今のイラクやトルコ)のほうから隣国ギリシアに伝わってくることも考えられる。それほど至近距離なのです。

 そのようなエジプト神話体系、メソポタミア神話体系の影響などを受けながら、神話的物語がギリシアの風土の中で練り上げられていき、いわゆるオリンポス十二神の物語――ゼウスを中心神格として多くの神々がさまざまな活動をする物語――ができてくる。その話の中の1つとして、ゼウスの子・ペルセウスの英雄神話も出来上がっていく。ゼウスの子・アテネ、アポロンなど、いろいろな神々の物語ができていったといえます。

―― 可能性として、ですね。

鎌田 伝播が中心になりながら、その土地の風土の中で、あるいは部族の中で上書き...
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