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マルクスの『資本論』をなぜ今、読み返すべきなのか

マルクス入門と資本主義の未来(6)技術革新とグローバル化の影響

橋爪大三郎
社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授
概要・テキスト
マルクスが予見しきれなかった中産階級は、今日急速に減少しつつある。近代経済学によれば、その理由はグローバル化が進んだことにより生産設備が発展途上国に移転したこと、コンピュータなどの技術革新によって管理部門の職が減少したことに求められる。マルクスの予言とは異なる経路ではあるが、マルクスが予見したような世界に近づきつつある中で、現状を分析しより良い社会に前進していくための手がかりとして、今こそマルクスの遺したテクストを読み返すことが求められている。(全10話中第6話)
時間:06:24
収録日:2020/09/09
追加日:2021/01/28
≪全文≫

●中産階級の減少と格差社会の到来


 中産階級の出現は、『資本論』に書いてある通りの歴史発展は起こらなかったことを意味します。対して、最近の状況に目を向けると、中産階級が消えていっています。これまでの中産階級は、郊外で住宅を持って、それらしく資本家と共存していました。1950年代のアメリカでは、ブルーカラーの人々が郊外に一戸建てを持ち、それなりに余裕のある生活を送って、子どもを大学まで卒業させることができました。

 現在はまったく異なる状況となっています。中産階級は非常に厳しく、非正規雇用が増大しています。日本でもアメリカから20年程度遅れて、小泉改革以降そのような状況が生まれて、格差社会が出現しています。

 格差社会では、一握りの企業の役員や管理職の人々がそれなりの生活を送る一方で、大多数の人々がマルクスの描いた賃金労働者のようなその日暮らしとなって、貯蓄もできない状況となります。後者のような人の数が膨大になっており、大きな貧困層が形成されるという状況が、先進国で見られるようになってきています。これは、マルクスの予言が当たっているといえるのでしょうか。マルクスの見直しが求められるのは、このような状況にあるためです。


●近代経済学による中産階級の減少の説明


 近代経済学の理解では、地主、地代、資本家、配当、利子なども存在します。労働者も賃金を受け取ります。マルクス主義では、地代や配当は存在すべきではありませんが、近代経済学はこれらの存在を認めています。それでは、地代や配当、労働者の賃金はどのように決まるかというと、生産についての限界的な寄与、すなわち労働力の一単位の増加によって伸びた生産、つまり付加価値を労働者に対価として与えるという考えなのです。中産階級の賃金が減少しているという現象があるのですが、近代経済学はこの現象を二つの理由で説明します。

 一つは経済がボーダーレスになったことで、資本設備と技術がこれまで産業がなかった中国やヴェトナムなどに発展途上国、新興工業国に移動していったことです。これにより、産業の空洞化が起こります。そもそもアメリカでは生産活動を行わないため、アメリカに住んでいる限り労働者の寄与はほとんどなくなってしまいます。そのために賃金が下がっていってしまうのです。

 もう一つの理由は、ホワイトカラーによる生産活動の分解です。労...
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