●投資原則その5:自分の「能力の輪」を守る
―― 次に5番目です。「自分の『能力の輪』を守る」ですが、「能力の輪」とはどういうことでしょうか。
桑原 これはたぶんバフェットが時に非難の対象になったり、賞賛されたりする一番の原因の一つです。能力の輪は、自分が非常によく理解できていて、その価値を見極めることができる業界や企業のことです。例えば、石油関係の会社であれば、バフェットにとってはその企業の業績を本当に少し見るだけで、その会社の評価と成長性が分かります。そのように、自分にはよく分かる分野の業界がバフェットにはいくつかあるのです。それがバフェットにとっては「能力の輪」になります。その外にあるものに関しては、自分がまず関心を示しません。
インテルという会社が創業するときに、バフェットはインテルの創業者とも知り合いで、投資をしてくれと言われて、大学の理事としては投資を決めるのですが、個人としての投資はしませんでした。インテルに投資していればどれだけの利益を得られたことでしょう。しかしそのときにバフェットは、「自分にはこの業界のことは理解できない」と言います。
またマイクロソフトのビル・ゲイツとも友人ですが、そのビジネスは自分には分からないから投資をしないという頑なさが非常にあります。その代わり、自分の能力の輪の中にあるものに関しては本当に5分で決断できるぐらいの自信を持っています。
そこから出てきた原則の1つは、「投資の世界には見送りの三振がありません」ということです。「こんなにおいしい株があるよ」、「儲かりそうな株があるよ」と言われて人はすぐ飛びついてしまいますが、それが自分の能力の外にあるのであれば無視すればいいということです。それは別に三振にはなりません。いくら見逃したっていいのです。
ところが人間は、自分には訳の分からない企業、それこそ何をやっている会社か分からないのに飛びついてしまう癖があり、それをまず戒めています。
2つ目に、「最も重要なのは、自分の「能力の輪」をどれだけ大きくするかではなく、その輪の境界をどこまで厳密に決められるかです」と言っています。これが非常に難しいのは、やはり誘惑はあるからです。証券会社や、金融機関などからおいしいことを言われると、ついやってしまいます。しかし、それをやってしまうと失敗します。そこで、ノーという強さがバフェットにはあります。
3つ目が、「失敗した場合でも、そのいきさつを説明できるようにしておきたいと考えています。自分が完全に理解していることしかやりたくないのです」と言っています。その理由が4つ目で、「リスクとは、自分が何をやっているかよく分からないときに起こるもの」だからです。
結局こうやって能力の輪を守ることによって、バフェットは大成功しますが、同時に能力を守るための判断によって、「なぜITに投資しないのか」、「バフェットは馬鹿なのか」くらいの批判をされる時期もあります。しかし、そこを頑なに守ったことによって、バフェットは成功し続けます。とても難しいのですが、バフェットの投資原則においては、たぶんこれが一番大事な原則になります。
―― 変に強欲にならずに、あえて自分の手のひらの内で、分かるところだけの世界で勝負するということですね。
桑原 そうですね。はい。
―― これはなかなか「言うは易く行うは難し」ですね。
桑原 一番難しいところですね。
●投資原則その6:自分の判断に従って行動する
―― 続いて6番目です。「周囲の声に惑わされることなく、自分の判断に従って行動する」です。
桑原 これは投資に限らず企業経営でもそうで、「多数決が正しいとは限らない」や、「みんなが賛成と言うときはどうなのだ」とよく言われます。バフェットによると、やはりここにあるように、「ビジネスの世界で最も危険な言葉は、『他の誰もがやっている』」ということです。「他のみんながやっているから安心だ」と考えて、投資においても、「証券会社がこれだけ紹介しているのだから」、「プロがこう言っているのだから」ということで、つい買ってしまうことがよくありますが、そういうことをしていてはダメです。バフェットはあくまでも「周囲の声に惑わされることなく、自分で考えて、自分で判断して行動しなさい」と強く言っています。
これをバフェットは「内なるスコアカード」と「外なるスコアカード」という言い方をしていて、外の考え方に振り回されると失敗するので、自分が持っている内なるスコアカードを大切にして、1つ1つ判断していこうと言っています。株式投資だと、周りが熱狂しているときは一番危険なので、そういうときには慎重...