●GAFAはバフェットの考え方を経営に生かしている
―― このようなバフェットの考え方は若い経営者にどういう影響を与えていたのでしょうか。
桑原 そうですね。やはりバフェットが尊敬されている理由の1つには、古くさい言い方になりますが、バフェットが今をときめく、いわゆるGAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)などのIT業界の経営者たちの経営に非常に強い影響を与えていることです。
これは投資と離れるので、あまり語られませんが、バフェット自身はインテルの創業時にも投資していませんし、その後のテクノロジー業界やIT業界にもあまり投資していません。唯一投資しているのがアップル(Apple)です。アップルに関しては、アップルの株の5パーセント以上を所有していて、これは別です。バフェットにとっては、Appleはモノを作っているので非常に理解しやすく、ブランド力もあり、少し特殊な例です。他の会社に関しては、バフェットは投資をしていません。
しかし、そういったGAFAの経営者たちは、バフェットの考え方を自分の経営に生かしています。これはたぶんバフェットが尊敬されている理由の1つだと思っています。
●バフェットはグーグルにとっては非常に有難い存在
―― それは具体的にどう表れているのでしょうか。
桑原 まずグーグル(Google)は2014年に株式を公開したときに、創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが「創業者からの手紙」を出します。バフェットがバークシャー・ハサウェイで出している「バフェットの手紙」は非常に有名で、本も何冊も出ているのですが、それと同じようにグーグルの創業者2人は株主たちと金融機関に向かって、自分たちの手紙を付けます。その中で彼らは「自分たちは短期的な経営数字には目をくれるつもりはない」と言います。自分たちは長期的なスパンで経営をしていくし、そうやって会社を運営していく。短期的な利益目標にも自分たちは一切目もくれないということです。これは株式公開においては言ってはいけないことです。本来であれば、3年あるいは5年のきちんとした計画を出して、数字を作って、会社をこうしたいと言うから投資をしてくれるのですが、グーグルの2人はそれを端から否定しました。
そのときに彼らがその手紙に、ウォーレン・バフェットは次のように言っていると書き添えます。「株価に右往左往するのは、体重計に毎日乗っているようなものだ。そんなことをする必要はない」。また、利益に関しても、「上がってきた利益がそのまま利益であって、それを見通しや期待に合わせてならすようなことはしない。」と。
彼らは、バフェットがこう言っていると出して、自分たちがこういう会社を経営していくことを納得させてしまいます。やはりそれぐらいバフェットがウォール街に対して強い影響を持っているのです。そして彼はグーグルにとっても非常に有難い存在でした。
またグーグルの株はA株とB株という、支配権の強いものとそうでない株に分かれるのですが、こういう経営の仕方もバフェットのバークシャー・ハサウェイがやっています。グーグルもそれを取り入れることによって自分たちの支配権を確固たるものにしていて、バフェットはGoogleにとっては非常に有難い存在になっています。
―― 非常にいい説得材料で、ある意味では印籠のようなものですね。
●アマゾン、フェイスブック、マイクロソフトに与えた影響
桑原 そうです。それから1つ飛ばして、アマゾン(Amazon)も当然、株式を公開するのですが、その後ITバブルの崩壊によって株価がピーク時の20分の1にまで下がった時期が、2000年頃にあります。そのときにジェフ・ベゾスは当然、「会社経営者としてもっと利益を出せ」や「目標をちゃんと設けてやれ」などとすごく言われます。このときもやはりジェフ・ベゾスはバフェットの言葉を使って、「自分たちはそんな目先の数字、株価には拘泥しない」と言います。彼に言わせると、「株価が30パーセント下がったからといって、自分たちが30パーセント馬鹿になるわけではない。30パーセント上がったから30パーセント利口になるわけでもない」ということを言いながら、その中でバフェットの言葉を引用して、社員の動揺を抑え、ウォール街に対して説得しました。
それからもう1つは先ほど触れましたが、ジェフ・ベゾスはバフェットが大株主であったワシントン・ポストの株を後に買って、ワシントン・ポストの社主になります。そのとき、ワシントン・ポストのドン・グラハムという人が候補をいくつか挙げて、この株を売るとしたら誰に売ったら良いかをバフェットに相談したところ、「ジェフ・ベゾスが良い」、「ジェフ・ベゾスこそ世界最高のCEOだ」と推...