●日本潰しの遠因は「スプートニク・ショック」
もちろん日本企業研究だけではなく、アメリカの背後には強力な政府と軍があります。国家と軍の強力な戦略的支援がシリコンバレーにもありました。このもとはというと、実は「スプートニク・ショック」にありました。
スプートニクは、1957年10月にソ連が宇宙に打ち上げた衛星の名前です。これだけの宇宙技術がある以上、核兵器においてもソ連がアメリカを追い越したことが示唆されたわけです。人工衛星を核弾頭に付け替えれば核ミサイルとなり、大陸間弾道弾に使えるのです。
アメリカにとってはすさまじい衝撃でした。ケネディ大統領はほどなくこれに対抗して、「数年後に有人の月面着陸を実現する」と言いました。これができればスプートニクを追い越し、核戦争の主導権を握れるということです。これは、とうとう10年後の1970年に実現しました。
私はたまたま当時フルブライト留学生のオリエンテーションでテキサス大学にいました。テキサスは本当にアメリカらしいところで、宇宙センターがあります。フルブライトのときにそこへ見学に行きましたが、そこには月面着陸から帰ってきた宇宙船が半分焦げたままで置いてありました。これはアメリカの誇りだったことでしょう。
こういう努力の中、アメリカは国家を挙げて軍事、科学、技術の総合戦略体制を構築していきます。
●国防・軍事・民生を統合するDARPAのパワー
「アメリカ国家安全保障戦略体制(National Security Strategy)」といわれるものですが、この中心機関が、今世界から注目を集め、恐れられている「ダーパ(DARPA)」という組織です。DARPAは「Defense Advanced Research Projects Agency」というもので、日本語では「国防総省高級研究計画局」と訳されています。国防・軍事・情報を核として、ペンタゴンや国家航空宇宙局、国土安全保障省、エネルギー省、「National Science Foundation(NSF。アメリカ国立科学財団)」、「National Institute of Health(NIH。アメリカ国立衛生研究所)」なども含む総合体制となっています。ちなみにNSFはリサーチ基金、NIHは現在のコロナのようなときに最大限活動するところです。
要するに軍事から民生まで、最新の技術は全部総合するのが、アメリカ流のシステムということです。中国やソ連(ロシア)などは国家統制を行いますが、アメリカがすごいのはネットワークとして機能するところです。全部政府のもので、国のお金が入っていますが、見たところいかにも市場システムを用いてネットワークまで行っているように見えます。しかし、実際に行っているのは中国やロシアとまったく同じことです。
半導体については、以下のようなことを行いました。集積回路というのは、最初はアメリカのベル研究所でつくられます。ところが80年代の半ばになると、日本がこの分野で圧倒的にアメリカを凌駕してしまう。そこで、日本の半導体業界を叩き潰さなければならないということで、80年代、半導体協定を結んだ頃に半導体製造技術研究組合(米国SEMATECH)をつくります。国防総省はここに大量のお金を投入していきます。そこでDARPAを中心に、国防総省すなわち軍がバックして世界的な半導体の主導権を取り戻すということを行った。それが見事に成功したということです。
それだけではなく、「政府調達法」を制定して、シリコンバレーでつくった製品を政府が買い取ることにします。だから、シリコンバレーの企業は当然、安心して生産できるし、開発もできます。
例えばアメリカの公立学校はアップル製品を買わなければなりません。1994年、アップル製品はアメリカの小学校と高校の教育用コンピユータの58パーセントを占めます。何のことはない、これは国家資本主義です。彼らは、中国では国が主導しているとかロシアではどうと言っているけれども、一番それを応用しているのはアメリカではないかという感じがします。
●シリコンバレーの戦略的背景とスタンフォード大学
アメリカの卓越したところは、それだけでもありません。大学が非常に戦略的な役割を果たします。スタンフォードやカリフォルニアなど、西海岸が目立ちます。
アメリカの(名門)大学はほとんどが東海岸で、西海岸にはカリフォルニア大学とスタンフォード大学がありましたが、戦前まではそう大したことはありませんでした。何とか追いつきたいという気持ちがあったところ、戦前から戦中にかけてナチスの迫害を逃れたユダヤ人がどんどんやってきたのを吸収しました。
さらに大陸から亡命してきたロシ...