●「GAFA」ならぬ「GAFAMNT」の実像に迫る
島田 皆さん、こんにちは、島田晴雄です。今日はご一緒に「シリコンバレー物語」を考えていきたいと思います。
「世界の覇者」の実像とともに、今後どうなるかということを、今回のシリーズでは特に、世界を制覇したIT巨人を育んだシリコンバレーの物語を、皆さんと一緒に考えたいと思います。
「なぜ、シリコンバレーなのか」ということです。今、私たちの生活、ビジネス、経済はDX(デジタルトランスフォーメーション)に向かっていますが、それらをリードしているのは全てアメリカの企業です。アメリカに登場したIT巨人のノウハウや技術は中国へ流れていますし、長らく下請けしてきたインドにも非常に多く流れています。さらに、その先鋭的なところをイスラエルが拾っているというような状況です。
かつて200年前に産業革命がありましたが、現在も一つの世界史的な大革命が起きているといってもいいと思うわけです。その発信源がシリコンバレーなので、ぜひ皆さんと一緒に考えてみたいという次第です。
今、シリコンバレーに非常に巨大な先鋭的な企業があるわけですが、総称して「GAFA(ガーファ)」といわれています。しかし、私はあえて「GAFAMNT(ガファムント)」といっています。グーグル、アップル、フェイスブック(社名は現在「Meta」)、アマゾンに加えてネットフリックス。また、もともとの発祥はマイクロソフトであり、テスラという会社もめざましい。だいたいこの7つの企業が圧倒的ではないかと思います。
これらの大部分は、いわゆるプラットフォーマーです。プラットフォーマーというのは、ITで、需要側にも供給側にもサービスを提供する存在だから、相乗効果が生まれて情報が蓄積する。そうなると、人びとが入ってくるということです。それによりネットワーク効果が生まれるので、市場をだんだん制覇している。これが現在の姿です。
●40年で大人になったシリコンバレーの企業たち
シリコンバレーは驚異的な存在ですが、歴史はたかだか40年で、50年までいきません。40年前(1980年代)のシリコンバレーの姿を見ると、なんと日本企業に席捲されていたのです。シリコンバレーが半導体の生産基地だったためで、半導体といえば圧倒的に日本企業が強かった時代があるわけです。
アメリカはそれを巻き返していったのですが、巻き返し方が総合的で卓越していました。政府も、まるで共産主義国家でもあるかのように力を入れましたし、軍も産業界も総力戦で対日本の巻き返しを図ったわけです。
ただ、彼らが素晴らしいのは、日本企業の強さの秘密を産業界や学者がそろって学んだところです。日本企業の本当の強さを彼らは分析し、析出して、次には応用するということをやっています。
そういう動きをかたわらからずっと支えていたのが、スタンフォード大学です。スタンフォード大学は、おそらく世界で最初に総合的なエコシステム(生態系)をつくったのですが、その最中にIT産業革命と、それを推し進めた情報科学の一大転換がありました。これを1990年代のアメリカ企業が吸収し、シリコンバレーの巨人たちがみごとに吸収して、自分のものにしてしまったわけです。
こういう企業をリードした人たちはどういう人かというと、非常に個性が強いのですが、なんと半分は外国人です。このような外国人が青天井で活躍できる環境をアメリカが用意したのは、素晴らしいことではないかという感じがします。
ただ、例えばグーグルはできて23年しかたっていませんし、マイクロソフトは40数年たっていますが、ネットフリックスやテスラはわずか数年です。本当に20年前後でこれほど巨大な企業になった。いってみれば子どもが一気に大人になり、巨人になったという感じなので、社会との関係ではだいぶギクシャクしているところがあります。今、アメリカではそこが非常に大問題になっている。そのことも含めた全体像を皆さんと一緒に考えてみたいということです。
●GAFAMの時価総額とトヨタを抜いたテスラ
まず、彼らのプロローグを見ていきましょう。シリコンバレーというと、すぐ目につくのはGAFAにマイクロソフトを足した「GAFAM」の時価総額が東証一部の総額を抜いたのが2020年の5月というところです。なぜ2020年の5月なのかというと、たまたま統計がそこでドンピシャリと比較できるからです。
GAFAMの時価総額は、その時点で合計(日本円で)560兆円になりました。東証一部の2170社550兆円を、まさに5社で抜いたわけです。東証は、そのたかだか3年前にはGAFAMの2倍以上の価値を持っていました。それから3年半で東証は抜かれ、はるかに遅れを取った...