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世界から「ワイルドカード」といわれる日本の大問題

続・シリコンバレー物語~創業者群像と課題(11)日本は何を学ぶか

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
シリコンバレーについて学んできたのは、今後の日本にどう生かすかを考えるためである。一つは人材問題で、イノベーションに必要な人材、そのモデルを追求し、さらに市場競争と国家戦略においてはそのあり方を見直す必要がある。日本は世界から「ワイルドカード」と呼ばれているようだが、いったいいつまでそんな状態を続けるつもりなのか。(全11話中第11話)
時間:07:08
収録日:2021/07/20
追加日:2022/07/19
タグ:
≪全文≫

●人材問題、市場競争、国家戦略…日本の課題にどう生かすか


 さあ、最後にこういう中から日本は何を学ぶかということを申し上げて、まとめにしたいと思います。

 一つは、人材問題です。シリコンバレーの明らかに特筆すべき特徴として、異能な人材に活躍と成長の場を与えたことがあります。一方、戦後日本の高度成長とは何だったのかというと、先進国へのキャッチアップのプロセスでした。キャッチアップのプロセスでは、同質民族と企業共同体が大量生産・効率生産をするということで、まさにこれに適合し、寄与したモデルだったのです。

 しかし、キャッチアップが終わると、中国語で「チャオシン」という「創新(イノベーション)」、まったく新しいものをつくり出していく競争に入ります。ここでは、そのモデルは利かない。異能の人材の異質な発想を生かし、彼らを存分に活躍させる環境が最も重要なのです。日本はそれが全くできなかったのです。ですから、外から見ていれば分かったでしょうが、必然的に破綻していきました。シリコンバレーは、その可能性を存分に生かした。したがって、今日の発展があるのです。

 さて、市場競争と国家戦略との関係についても、ひと言申し上げたいと思います。シリコンバレーが半導体で日本産業に制圧されかけたとき、アメリカの産業界のみならず、官・軍・学が推進した総合的な逆襲戦略は、まさにアメリカ流の国家資本主義戦略でした。

 一方、日本が敗戦後の復興と成長の過程で推進した総合キャッチアップ戦略は、アメリカによって「Japan Incorporated(日本株式会社)」と、非常に批判されました。そして、プラザ合意と半導体協定を経て、アメリカによって壊滅され、脱力してしまったわけです。その後の20~30年を空費して、今日に至っています。

 しかし、考えてみましょう。今や世界は新たな激しい技術革新競争の中にいて、しかも米中対立で激動しています。どの国も、先端産業に限らず、あらゆる戦略産業、さらには医療や教育まで国家主導が基本になっています。日本は40年前にアメリカに“ぶん殴られた”からといって、へこんでいるときではありません。日本は今やアメリカの国家主導戦略を他山の石として参考にして、未来志向の国家戦略体制を、技術革新や戦略産業はじめ医療、教育まで再構築すべきときではないかと私は思います。


●民主主義の復元機能を注視する世界


 最後に、民主主義の復元機能について考えてみたいと思います。

 あまりの急成長に伴って社会的に疑義の残るアメリカのIT巨人に対して、欧州から懸念や批判もあるわけですが、アメリカには、やはりなかなかのところがあります。アメリカの司法省やFTCは、このIT巨人の反社会性を自ら指摘し、分析して、提訴などの法的手段に訴えて批判し、改善を迫っています。

 ここで注目すべきは、当局がすでに10年近い時間をかけて問題点を究明し、批判を続けていることです。このプロセスにおいて、情報が人びとによって広く共有され、民意が醸成されるわけです。これは大変時間のかかるプロセスですが、これこそが民主主義の根幹なのです。

 中国も、このところ習近平政権は、にわかに自国のIT巨大企業に対して批判と介入を強めています。「国家の力を上回るのはけしからぬ。許さない」ということですが、アメリカとの違いは、中国は2日もかけずにアリババ傘下のアント・ファイナンスの上場を差し止めたことです。中国らしい、専制国家ならではの斧を振り下ろしたのです。

 世界は、こうしたアメリカと中国の違いを、息を凝らして注目しています。アメリカのIT巨人企業に対する追及は時間がかかるけれども、民意の醸成を待って合意を得る民主主義の復元機能がギリギリ生きているように思います。


●日本が「ワイルドカード」から脱却するために


 一方、日本の政権は、ともすれば議論もせず、国民との情報共有も不十分のまま、重要な決定をすることが珍しくない。今度のコロナ対策をめぐっても、たびたびそれは見られます。それは国内だからいいとしても、国外に向かうと大きな問題になります。世界から日本は「ワイルドカード」という異名を取っているのです。 議論もしないで突然決めるので予測がつかないという意味です。

 例えば1952年のサンフランシスコ講和会議で、初日にはアメリカとイギリス代表が話をしました。2日目に日本の吉田茂首相が話をして、「日本は、これら先進の国々に感謝をする。日本は民主主義を守って、がんばっていきます」と言ったのですが、民主主義について日本が議論したことはありませんでした。戦前は“神の国”という考え方でし...
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