●FTCがフェイスブックを提訴、明らかになったGAFAの成長モデル
2020年12月、(グーグル提訴と)同じ頃にFTC(Federal Trade Commission、米国連邦取引委員会)がフェイスブックを反トラスト法違反の疑いで提訴します。「画像アプリ(インスタグラム)や対話アプリ(ワッツアップ)など、新興企業を買収して競争を阻害した」というかどで、「インスタグラムとワッツアップは直ちに売却」すべきだということを、取引委員会が要求しました。
ただ、ここで残る論点は、(フェイスブック側に)競争を弱める意図があったのかどうかです。さらに、6年前にインスタグラムを買収したとき、当局は何も言わなかった。これを覆すことができるのかという法技術的な問題があります。また、消費者が損害を受けているのかどうかの証明も必要で、これは結構難しいと思われます。
こういう訴訟で明らかになってきたことは、GAFAが企業を買収しながら成長していることです。たとえ自分のところの開発力がなくなっても、吸収したところが開発しますから、永久に育ち続け、増え続けるわけです。
マイクロソフトとGAFAの企業買収は過去30年全部を積み上げると、なんと770件に上るのだそうです。だから、買収で成長するモデルというのが、フェイスブックを起訴したことで揺るぎ始めているのではないかというのが、関係者の指摘ないし期待といえることです。
ただ、フェイスブックは「一度承認した買収を覆すのは公正ではない。過去の判断を変更するのだったら、アメリカの企業は永久に企業買収なんかできなくなりますよ」と反論しました。FTCは、「買収は承認したのではなく、当時阻止しなかっただけだ」と言っています。
買収による競合潰しの意図があったのかどうかということですが、ザッカーバーグ氏のスマホに「あいつが成長したら、俺たちにとって破壊的だ」というメッセージがあったことをFTCは突き止めています。これは、意図があったという、かなりギリギリの議論が続いています。
●ラナ・フォールーハー氏の指摘
ここで、「フィナンシャルタイムズ」で論陣を張っているラナ・フォールーハー(Lana Foruher)氏という素晴らしい女性の論客が登場します。この人は多数の書き物をしていますが、中でもフェイスブックへの提訴があった時に書いた論説が非常に良いので、その趣旨をご紹介しましょう。
「フェイスブックがインスタグラムやワッツアップを買収した数年前、世間は巨大テックの事業モデルを全然理解していなかったといえる。消費者は無料でネット検索したり、友人とつながったりして得意がっているが、実際には精緻なアルゴリズムで利用者をコンテンツや製品に誘導するだけでなく、利用者の行動や好みや通信内容が監視され、高値で売りつけられている。
規制当局は、SNSや対話アプリ、画像共有アプリなどをそれぞれ別のマーケットとしてとらえていたが、これでは実態を理解したことにはならない。なぜならば、買収した後、これらは企業複合体になるからだ。その複合体の中で、あらゆる場面から収集されたデータを統合して、それをテコに巨大な力を持つようになるということを規制当局は理解していなかったと思う。ターゲティング広告が消費者の選択に影響することも、規制当局は理解していなかった。
そもそも規制当局は、デジタル世界がバーター取引になっているという本質を理解していない。デジタル取引はバーター取引であり、利用者はサービス利用の対価を個人データという通貨で支払う(「個人データ通貨」はフォールーハー氏の造語)。しかも自分が提供したデータを企業側がどう扱うかをまったく知らされていない。このような実情に対して、われわれも司法当局もあまりに無知だったと思う。
しかし、ようやく当局はデジタル市場が勝者総取りの世界だということを理解しはじめた。巨大テックは新興企業が成功して、急成長を始めると、競争上の脅威を取り除くために買収を図る。これに対して、FTCと48の地方司法長官は、違法な独占の定義を拡大する方針だ。独占による物価引き上げの発想を超えて、利用者の時間や関心、個人データが統合され、不公正に販売されている事態を問題視するようになったのである。」
なかなか見事な論説で、全体像をうまく言い当てています。ところが、FTCがせっかく真剣になって提訴したものを、その後アメリカのワシントン高裁が却下するという経緯になっていきます。
●EUの策定した二つのデジタル法案
ヨーロッパに目を転じると、もう少し先まで行っています。2020年12月15日、EU...