●プレートテクトニクスでは「ホットスポット」の説明ができない
沖野 「プレートテクトニクス」はだいたい1960年代の半ばに生まれた考え方で、これは定理や原理とは少し異なっています。「地球の表面は固いプレートで覆われていて相対運動をしている」と考えると、さまざまな観測事実がうまく説明できるという、ある種の考え方、パラダイムで、考える枠組みとして提唱されています。
―― 状況を説明できる理論ということですか。
沖野 そうですね。でも、理論というと少し微妙で、証明するとかそういうものではなくて、こういう考え方に則ると、いろいろなことが説明できるというものです。ただ、非常に有能なパラダイムで、提唱されてから50年以上たっていますが、地球表層の現象のいろいろなことを、私たちはいまだにプレートテクトニクスを基盤にして説明しようとしていますし、非常にうまく説明できるのです。
とはいえ、プレートテクトニクスが万能ではなく、いくつか問題点といいますか、説明できていないこともあります。
―― そこは面白いですね。
沖野 はい。例えば一番分かりやすいのでは、プレートテクトニクスの考え方によると、プレートは板であるということです。なので、板の内部は固くて変形しない。いろいろな地震とか火山は、縁でこすれ合ったり、押したり引いたりするから起こると。では、ハワイは何なのだということになります。
―― 火山ですね、確かに。
沖野 はい。ハワイはなぜできたか。ハワイは、例えば岩石の調査とか物理探査からすると、非常に深いところから温かいものが上がってきてできた火山で、こういう場所を「ホットスポット」といいますけれども、地球上にいくつかあります。一番有名なのはハワイとアイスランド。旅行に行くのであれば、ちょっと小規模ですが、アメリカのイエローストーン。これらのものをあまり説明ができません。
―― 先ほどの説明ですと、開いてしまったところを埋めるために上がってきて、マグマになるということでしたよね。そこは違うということですね。
沖野 違います。沈み込み帯の火山でもない。深いところから来ていることはいろいろな状況証拠から確かですが、プレートテクトニクスの枠組みには入れられません。プレートテクトニクスは表層のことしか説明していないからです。したがって、1つの大きなポイントは、地球の深部との関連を説明する枠組みになっていないということです。これが1つ、大きなパラダイム外のことになります。
●「巨大火成岩岩石区」の成立もプレートテクトニクスでは説明できない
沖野 もう1つ。この地図を見てもらうと分かるのですが、ここ(アフリカの南東、南極大陸近く)に巨大な台地があり、ここ(オーストラリアの北東)にもあります。日本の近くで一番大きいのはここ(日本の東)ですかね。
―― それらは当然、海底ですね。
沖野 そうです。海底に巨大な台地があり、台地は全部溶岩でできています。性質としては他の海底のような玄武岩というタイプですが、とにかく巨大な台地です。しかも年代を見ると、例えば中央海嶺ですと少しずつ少しずつ(溶岩を)出していますが、それに比べたらごく短期間に膨大な量を出して、台地をつくっています。なかなかこういうものを見に行くのは大変ですが、陸上にも結構似たものがあります。インドのデカン高原という高地が同じシステムで、地質学的なスケールでいうとかなり短い期間の中で膨大な量のマグマを出して、溶岩台地をつくっています。それができていることは分かっていますが、現在の地球でそういう場所がありません。
「巨大火成岩岩石区」といいますが、こういう巨大な溶岩の台地のようなものができているのは地球の歴史の中で特定の時期に何回かあります。そういうものもプレートテクトニクスは説明していないのです。
●プレート運動の加速や減速もプレートテクトニクスは説明できない
沖野 もう1つ。先ほどから「プレートは年間に5センチほど進んでいますよ」とか、「10センチほど進んでいますよ」といっていますが、全部速度ですね。1年あたり何センチというように。つまり、(逆にいえば、プレートテクトニクスは)加速や減速が説明できないのです。
―― 加速・減速をしているんですか。
沖野 普段私たちが観測しているレベルではそんなにしていません。ですから、プレートテクトニクスは、今の時点での状況については非常によく説明しているのです。
でも、この問題(西南日本下への沈み込み)もそうですが、沈み込みの始まるとき・終わるときとか、そういう定常ではなくなることが説明できません。
―― タイムスケールでいうと、何年スパンで変わる可能性があるということなのですか。
沖野 数100万...