●日本列島の周辺は水深も性質も違う不思議な場所
沖野 元の話に戻って、日本の近くの話題に移ります。
中央海嶺は火山ができるシステム自体、比較的簡単です。そのために、地球上の海底は大陸に比べるとあまりバリエーションがなく、割と世界中どこでも同じ種類の石が採れるし、同じような形をしています。そういうものが1億年とか、場合によってはもっと短い期間動いて、海溝で沈み込むわけです。
ところが、日本列島はよく見ると結構不思議なことになっていて、これまでにも(シリーズ内で)お伝えしましたが、太平洋プレートは東北日本のほうに沈み込んでいますし、フィリピン海プレートも沈み込んでいます。しかし、そもそも海溝の深さが違いますし、沈み込むほうの深さ自体も違います。
―― こうやって見ると、とても違いますね。これはどのぐらい違うものなのですか。
沖野 地図の下に書いてありますが、大雑把にいうと(太平洋プレートのほうの)青い部分は5,000メートルとか6,000メートルくらいです。こちら(フィリピン海プレートのほう)は緑なので4,000メートルほどです。
―― そこだけで2,000メートルほど違っているわけですね。
沖野 違います。なぜかというと、前回までの中央海嶺の話につながっています。海嶺で(海底が)できたとき、プレートは温かいけれども、それが広がっていくと、その後は火山活動がないのでひたすら冷やされる。冷えると密度が高くなる。そうすると、(海底は)沈むので、中央海嶺から離れれば離れるほど、つまり古くなればなるほど、海底は深くなる、ということです。
なので、こちら(太平洋プレートのほうの青い部分)はとても古くて、1億年以上。一方、こちら(近畿・四国の南のほう)はとても若いのです。水深を見れば一目瞭然で、一番古くてもたぶん2,500万年ぐらいと若い。
―― 全然オーダー(桁数)が違いますね。
沖野 はい。その真ん中のあたりですと、たぶん1,500万年ぐらいで非常に若い。そういう性質の違うものが沈み込んでいることが、ここでのいろいろな地震の状況に(その作用として)利いているかなと思います。
―― しかし、日本の近くで、そんなに短い距離ですが全然性質が違うことがあるというのは大変な場所ですね。
沖野 大変な場所です。
●「背弧海盆」という小さな海底拡大のシステム
沖野 ではなぜ若いのか。こちら(太平洋プレートのほうの青い部分)は先ほどいったように太平洋のかなり東のほうでできて、一億年かけてここに来たということです。
一方、こちら(近畿・四国の南のほう)はどこから来たか。沈み込み帯がありません。今まさに西南日本に沈み込んでいるところは逆三角形で盆地みたいになっていますが、ここ(四国の沖合)は「四国海盆」といいます。海盆というのは、海の盆地のことです。ここを見ると、確かに今は沈み込んでいるけれども、なぜここにできたのかがよく分かりません。
でも、よく見るとそういうところがたくさんあります。ここ(さらに南のほう)の盆地もそうですし、(その隣の)変な三日月の切れたようなところもそうですし、遠くから見ると日本海もそうです。他にも、ここ(北海道の北東側の海のほう)に盆地があります。このように、盆地がポコポコとあるのです。
このようなことは世界中にも見られます。今、見たのは日本周辺ですが、他には例えば、オーストラリアの東のほうや北東のほうとか。太平洋の西側にもポコポコと大陸の縁に盆地があり、大きいのはここ(ベーリング海)とかです。
ということで、これが「背弧海盆」といわれる、少し変わったシステムです。沈み込みが起こったときに、沈み込みに沿って火山ができますが、活動的な火山と海溝の間のことを「前弧」といいます。その後ろ側は後弧とはいわず、「背弧」といいます。この背弧にとても小さな海底拡大のシステム、小さい中央海嶺のようなものができます。
―― そういうケースもあるわけですね。
沖野 あります。これがどうやって始まり、どうやって終わるのかは、いまだによく分かっていない問題ですが、太平洋の西側には非常に多いのです。
ただ、この世界地図を見ても、盆地の大きさは大小あるように思うかもしれませんが、実は3倍違うものはないと思います。だから、オーダー(桁数)が大きく違うような盆地はありません。
日本の南のほうにある四国海盆の場合は、2,500万年前ぐらいに何かで海底拡大が起こって、1,000万年くらい海底、つまり盆地をつくってその活動が止まったということです。
―― 止まることもあるわけですね。
沖野 はい。今見て盆地のサイズがそんなに違わ...