●地球の地形調査が困難なのは海が原因
沖野 それでは、これまで話してきたこと(海底の地形)をどうやって調べるかという話を次のスライドでしたいと思います。
―― よろしくお願いいたします。
沖野 そもそも、火山の活動とか、地震計を置くには海に行って調査をしないと本当のことは分からない。地球の深海底はすごく探査のしにくいところです。
例えば、このスライドの下の図が地球で、北極側と南極側から見ている画です。これ(上の図)が火星で、NASAのデータです。大きさは、半径だと地球の6割ぐらいで、少し小ぶりな感じです。この図では非常によく地形が分かります。地球と違ってあまり直線的なものがない。ここ(上の図の左の画の中央右側あたり)に大峡谷があるのが特徴ですが、全体としては、地球に見られるような海溝とかがないので、火星はプレートテクトニクスの世界ではないということです。いずれにしても、非常にきれいに地形が見えています。
地球も、地球全体を俯瞰するようなスケールで見ると、いかにも詳細に調査できているように見えるんですが、惑星全体としてどれだけ高い分解能で地形が調査できているかというと、火星のほうがよく調査できているのです。
―― それはどうしてですか。
沖野 (地球には)水があるのが非常に困るのです。
火星をどうやって探査しているかというと、火星の周りを周回する探査機から電磁波を出して、火星の表面から返ってくる波をキャッチして、高さを測っているのです。一方、地球で探査機を周回させると、出した電磁波が海面で返ってきてしまいます。地球の表面の7割ぐらいが海なので、地球の探査をする際、火星と同じ方法を取ると、海面を測ってしまって海底がよく分からないという事情があるのです。
こういう話をしますと、この画を見て「でも、こんなによく分かっているじゃないか」といわれます。ただ、ここには2つポイントがあります。1つは、こういうスケールで見ているからなのであって、ずっと細かく見るとイメージがぼやけてしまうということです。もう1つは、このレベルでさえ実は測っていないということです。推定した地形なのです。
実際に水の中を測ろうと思うと、音波で測るしかありません。火星で使っている電磁波のようなものは、水の中ではすぐ減衰してしまうので海底まで届きませんし、そもそも海面で反射してしまいます。したがって、船で行かないと基本的には測れないのです。
船で測れているところについては、いろいろなレベルがありますが、現在の機械の品質で測ることができているところは、地球の海の2割もないのではないかといわれています。それは、基本的には先進国の経済水域内で、あとは研究者が科学的に「ここは大事だ」というところに行くというレベルです。火星のように惑星全体を探査するというのはコストの面を考えると難しいのです。
―― これだけ広いところですからね。
沖野 はい。
●「衛星高度計」を使って海面高度と海底の凸凹を調べる
沖野 代わりに、海面を測ればいいのではないかということで、2、30年ぐらい前に考えられたのが、スライドで示した「衛星高度計」というシステムです。人工衛星から波を出すと、海面で返ってくるのですが、それによって「海面高度」、すなわち海面の凸凹は測れます。実は、海底に山があると海面も山になるのです。
―― しかし、これはそんなリアルに高くなることが分かるわけではないでしょうから、ほんの数センチほどの違いではないでしょうか。
沖野 そうです。でも、これは理屈としては通っていて、水面とは何かというと、重力に直交する面であって、周りの形に依存しません。コップに水を張ってコップを傾けても水面は傾きません。何にもない、例えば平らな海底だと、地球の中心に向かって(スライド内の)図の黒矢印のように重力はなります。ところが、山など余計なものがあると、重力は(スライド内の)図の赤い矢印の方向にどうしても引っ張られます。それでも水面はそれに直交するので、したがって、海面の形は緩やかにではあるけれども地球(海底)の凸凹を反映します。
ただ、スライド中央の左側に「海面高度=重力異常~海底地形」と書いてありますが、高度計からはっきり表れている海面の凸凹が何を意味しているかというと、正確には重力の異常を反映しています。しかし、その山が重たい岩石の山か砂の山かで、重力の引っ張られ具合は違います。その結果、海面の凸凹の具合も違います。だから、正確には凸凹が何でできているかが分からないと地形には戻せない(表現できない)のですが、それをいろいろな仮定のもと、実際に船で測ったときにそれとどう合うか、その整合性を...