●「エルニーニョ・ラニーニャ現象」とは何か
長期の予報にとって重要なのは海洋の状態ですが、その海洋の状態の中で一番大きな自然変動をもたらすのが「エルニーニョ・ラニーニャ現象」です。これは、熱帯太平洋の大気と海洋が結合して、変動を起こす現象です。ここでは、これについて簡単にご説明します。
熱帯の太平洋は、特に大気と海洋が普段からお互いに大きな影響を及ぼし合っています。そして、その状態が周期的、あるいは半周期的に変わっていきます。その結果としてある時期には、「ラニーニャ」と呼ばれる状態になります。これは、水温や雨の降り方に関して、東西で非常にコントラストが付く状態です。そして、特に東の方が冷たくなります。気圧も東の方が高くて、オーストラリアの方で気圧が低くなります。その結果、気圧の高い東から低い西に貿易風が強く吹きます。さらに、それによって実は東の海洋において冷たい水が湧き上がってくるわけです。そして、これがまた強い冷たさを維持・強化します。
ですから、熱帯太平洋の東側では積乱雲の発達が抑えられてしまって、逆にインドネシアとかオーストラリアの方でより雨が降りやすい状況になります。このあたりは普段から雨が降りやすいのですが、それが一層顕著になるということです。
他方でエルニーニョはそれとは対照的な状態で、東西のコントラストが弱まった状態を指します。ですから、普段は冷たい熱帯太平洋の東の方で、水温が普段よりも上がります。それによって、貿易風も当然弱くなりますし、それから東の方における冷たい水の湧き出しも弱くなって、東側の暖かさを支えるようになります。雨の降り方も、実はオーストラリア・インドネシアの方から少し太平洋の方に降水域が広がってきます。このように、降水域がずれてきますので、インドネシア・オーストラリアの方では雨が普段よりも少なくなるわけです。
これは、雨の降り方が変わりますから当然、凝結熱の出し方も変わるということです。それに大気の循環が応答して、広い範囲で大気循環が変わるということになります。
●エルニーニョ・ラニーニャ現象とアンサンブル予報
上の資料は、最新の予測です。これは、複数のモデルを用いたアンサンブルの季節予報です。これは、韓国の釜山にあるAPECの気候センターで、複数の予測機関からの情報をまとめています。日本の気象庁の情報も入っています。日本の海洋研究開発機構の情報も入っているはずです。
上のグラフは3月に出された予報で、4月からの情報を予報しているわけです。このグラフは、熱帯の中部と太平洋の水温の偏差、つまり平年からのずれを表しています。これを見ますと、5つのモデルの情報(A~E)が現在ここに登録されています。そしてどのモデルも、水温が平年よりも高いという状態を予測しています。
ですから、今もそうなのですが、弱いエルニーニョ状態が今後も継続するだろうといえます。ただし、水温偏差の振幅予測に関しては、かなりばらつきがあります。それはつまり、ここに不確実性があるということを意味しています。
資料の下の図が、これら全てのモデルの予測をまとめたものです。気温偏差の確率予測を示しています。これは7月から9月の気温偏差の確率予測ですが、エルニーニョの影響で熱帯域全体では高温偏差になりやすいといえます。もちろん、この背景には地球温暖化がありますので、他の地域でも基本的には高温偏差気味になるだろうという予測が出ています。ですから、異なる複数のモデルを用いることで、そのばらつきの推定がさらにできるということになります。
●複雑なアンサンブル予報の試みも進んでいる
上の資料は、前回のシリーズ講義でご説明した、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)による気候予測です。これはある意味で、究極のマルチモデルアンサンブルになっています。2007年の4次報告の時点ではまだ20数個でしたが、2013年の時にはもうだいたい50個にまでモデルの数が増えていますので、それだけばらつきの予測がしっかりとできるようになっているというわけです。
それからもう1つ、さらに面白いものがあります。上の資料は日本のプロジェクトであるd4PDF(database for Policy Decision making for Future climate change)というものですが、アンサンブルの数を100くらいに増やすというものです。しかもそれを、非常に高い解像度で走らせるというものです。そうすると、熱帯低気圧の動向までもが、どのように確率的に変化するかということがいえ...