●日々の数値天気予報には限界がある
決定論的な数値予報には、おのずと限界があります。日々の決定論的な天気予報の限界は、理論的には2週間といわれていますが、大体1週間から10日で限界になります。数値大気モデルの中では大気のいろいろなプロセスが表現されています。ですが、現在までに大きく発達したといっても、数値大気モデルによる表現、あるいは観測データをなじませるデータの同化には、若干の不完全性が残ってしまいます。
さらにそうした不確実性に加えて、大気の循環自体が実は非線型性を有しているという問題もあります。つまり、数値天気予報においては、予報される変数が積の形すなわち掛け算の形で出てきます。これはカオス的なものになりがちであることが数学的に分かっています。そこでは、非線型性が原因となって、初期に生じたほんのわずかな観測値の誤差が急速に拡大してしまいます。そして、いずれは限界に達してしまい、予報の価値がなくなるところまで増幅してしまうわけです。
●確率的な天気予報
しかし、数値予報に限界があるとしても、われわれはここで諦めているわけではありません。決定論的な予測を行うのはここまでにして、後は確率論的な予測を行っています。それが確率予報です。例えば、上の図に示したような落ち葉のことを考えてください。秋になると落ち葉が落下してきますが、正確にどの位置に落ちるか、これを予測するのは困難です。
それがなぜかといえば、非常に小さな大気の乱れがあるからです。しかしながら、われわれには、風がなければほぼ木の真下に落ち葉は落下するだろう、そう容易に想像することができるわけです。さらに風が吹いてきたとしても、この風がある程度一定であれば風下側に落ち葉が流れて落下するだろうし、この風全体が不安定であれば広い範囲に散らばってしまうだろう、といった予測もできます。つまりこれは、もし風が持続的であれば、その影響を確率論的に予測できることを意味します。例えば、風上側に落ち葉はほとんど来ないだろうと、われわれにはいえるわけです。
●アンサンブル予報によって、不確実性を逆手に取る
ですから、1週間以上先の確率予報では、こういった予測を利用するわけです。われわれはこれを「アンサンブル予報」と呼んでいます。これはどういうことかと言えば、観測値の不完全性を逆手に取るわけです。われわれは神様ではないので、完全に大気の状態を知ることは不可能です。例えば、建物のそばにある小さな大気の乱れ、そこまでは到底把握をすることはできません。
しかし、それは逆に真実の場は、われわれが今捉えた場からわずかにずれた、そういったものだという考え方につながります。そこで、逆に異なる誤差を初期場にわざと与えるわけです。人為的にいくつかの誤差を与えて、それによって何通りも予報をして、それがどのくらいばらつくのかを見ます。そしてそれによって、予報の確からしさ、あるいは不確からしさ、そういった情報を得ます。これが確率予報になります。
●アンサンブル予報のさまざまな実例
例えば上の資料では、非常に初期の頃の、ヨーロッパの中期予報センターが示した例が載せてあります。これは、ロンドンの気温の10日予報です。このグラフを見ると、少し異なる初期値で何回も予報を繰り返していることが分かります。左のグラフの場合、気温がほぼ徐々に下がっていき、しかもばらつきがほとんどありません。そうするとこれは、気温が徐々に低くなっていくということで、不確実性が小さいものになります。
対して右側のグラフは、個々の初期値に応じて大きく予測結果が変わっています。ですからこれは、不確実性が非常に大きいことを意味します。つまり右のグラフからは、これから先の気温の予測が今の段階では難しいことから、最新の情報に常に気を付けるべきだといえるわけです。
上の資料の下のグラフは、2019年3月20日からの1カ月予報の時系列です。これは51メンバーすなわち51の異なる初期値からの予測を併用した、上空の1500メートルくらいにおける気温の時系列です。西日本と北日本それぞれのグラフです。どちらも今現在は非常に暖かい状態ですが、どちらもしばらくすると寒気が入って冷たくなります。
これらのグラフを見ると、寒気が来るという予測はかなり確かなものです。しかし、それからの戻りにはかなりばらつきがあります。西日本についてもこれは同じですけれども、西日本の場合には寒気の入り具合が比較的弱いと分かります。こういったようにして現在では、1カ月の予報が出されているわけです。
この1カ月予報をマップで示し...