●天候の在り方を決める要因を整理する
ここで、今までの話をまとめていきたいと思います。地域の天候予報には、局所的な地形の影響、あるいは雲の存在、これらが大きいわけです。非常に地域的なものですと、今では2キロメートルとか1キロメートルの精度で、雲の1つ1つの塊をも表現できるようになっています。それが隣にずれただけでも、ある地点にとっては大きな影響があります。
それから次にグローバルな視点で見ますと、ある地域の天候は大規模な大気や海洋の循環の影響下にあります。こういった遠隔影響が、日本の異常天候にも関係してくるわけです。熱帯・中緯度・極域からの遠隔影響が、日本の天候に関与しているということになります。
それから、今、温暖化が進行していますので、温暖化の上に自然変動が重なって、それによって極端異常気象が起きるわけです。よって、自然変動の振る舞いが温暖化とともにどう変わっていく可能性があるのか、それも含めて研究しなければいけません。自然変動の中には、先ほどのエルニーニョのように、起こりやすい変動があります。長期的なエルニーニョの状態であれば温暖化は加速しますし、ラニーニャ的であれば温暖化は減速します。
ですから、このような自然変動が気候の将来予測における不確実性の要因になり得るということを、われわれは認識する必要があります。
このように、われわれは次のような理解をしているわけです。つまり、われわれが今、経験している自然は、自然の状態が取り得る1つの可能性にすぎないということです。ですから、他に取り得る状態があったかもしれない、そういった認識で自然を見ていくことも重要だと思います。
●複雑で不確実性を含む気候の予測にはアンサンブル予報が重要
それから、われわれの気候システムは、非線型の過程を多く含む複雑系ですから、予測情報には不可避的に不確実性が存在するわけです。ですから、この不確実性をうまく使って、アンサンブル予報の結果を見ていくことが非常に重要です。これはもう今でも、さまざまな予測、例えば、季節予報、温暖化予測、海流予測、これらは全てアンサンブルの予測になっています。火山灰などのいろいろな降灰予想、あるいは放射性物質の移流・拡散などの予測にも、やはりこのアンサンブルの考え方をきちんと採り入れる必要があります。
現在では上の資料に掲げたように、さまざまな情報発信が行われています。「レーダーナウキャスト」は、どこで降水が起こって、短い時間にどこまでどう移動し得るかを示します。これは単純な外挿ですが、非常に役に立ちます。そしてその先には、メソ予報による領域的な降水予測もあります。
このように、さまざまなレベルあるいは種類の予測情報があります。ですから、この原理を理解した上で有効に活用していくことが大事になります。実際に降灰予測は、もうすでに実用化されています。
●アンサンブル予報は社会のさまざまな活動に対する情報基盤となる
ということで、このアンサンブルの予測は、先ほども申しましたが、いくつか取り得る状態がどの程度ばらつき得るのか、その尺度を与えてくれるものです。それはつまり、この情報から不確実性の評価ができるわけです。したがって、これはリスク管理にとって非常に有用な情報を含んでいますので、防災・減災だけではなくて、農業・エネルギー・観光、あるいはその他の消費が天候に左右されるような産業・物流、そしてそれに関わるさまざまな保険や投資、こういったものの基礎となるような情報を提供してくれるというわけです。
それから、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)による気候の将来予測を考えても、これをどのようにうまく活用して、環境の将来における変化を考慮して、人間社会がいかに持続的に発展できるか、そういったことをみんなで考えていく必要があります。その中で、これはまさに国連が定めたSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)、あるいは「Future Earth」と呼ばれる、学際的あるいは超学際的、さらには学問分野だけではなくて、この社会全体やステークホルダーまでも巻き込むような研究、これをどのように展開していくか。これらに対して、非常に重要な基盤となる情報を提供しているともいえます。今回は、ここで締めくくりとなります。