●異常気象を理解するためには自然変動を理解する必要がある
前回のシリーズで申し上げましたように、異常気象ないし極端現象をもたらす要因には、短期の極端な自然変動があるわけです。この異常気象、例えば豪雨、あるいは熱波、干ばつ、寒波などは、最近でなくても温暖化が顕在化する以前から起きていたものです。ということで、全ての異常気象が温暖化だけが原因で起きているものではありません。温暖化は、こういった短期気候変動・自然変動が起こったときに、それに伴う異常気象の発生を促したり、あるいはその深刻さを増大させたりといった働きをしているわけです。
そこで、異常気象を理解し、またその予測の可能性を高めるためには、この自然変動自体の理解も必ず行わなければなりません。
●異常気象はほぼ偏西風ジェット気流の蛇行に伴って発生する
われわれが住む日本がある亜熱帯から、中緯度さらには高緯度域にかけて、このあたりで起こる異常気象のほとんどは、その上空を吹く偏西風のジェット気流が蛇行することに伴って発生します。この偏西風には、実は2種類のものがあります。北半球と南半球のそれぞれですが、緯度にして大体30度から40度のところに、非常に強いジェット気流があります。上の図で示している亜熱帯ジェット気流ですが、これは熱帯の非常に暖かい空気と、それから温帯の少し涼しい空気の境目を吹いています。この強い西風は、熱帯の積乱雲の活動やモンスーンの働きで維持されています。
これに対して、亜寒帯のジェット気流は、温帯の空気とそれよりもはるかに冷たい寒帯の空気の境目を吹いています。そしてこのジェット気流に伴って、移動性の高気圧・低気圧が非常に頻繁に発達しやすくなっています。実は、この高気圧・低気圧が集団として亜寒帯ジェット気流を維持している、といった面白い性質があります。
ではなぜ、このジェット気流が熱帯・温帯・寒帯といった気温の境目を吹くのか。それについて簡単に説明したいと思います。
資料内の下段の図を見てください。これは、北半球のジェット気流、西風のジェット気流、それを南北に切って、東から西の方、つまり上流側を見た図だと思ってください。南側の空気は気温が高いため、空気が膨張しています。これは、図の左側の風船のように、風船がより大きく膨らんだ状態だと思ってください。
対して右側の風船は、北側の寒気の方を表しています。ここではやはり、空気の柱は収縮しています。そうしますと、左の風船つまり南側の方が、気圧つまり圧力が高いわけです。この圧力の高いところから低いところに働く力を「気圧傾度力」と呼びます。
●「コリオリの力」と地衡風としてのジェット気流
しかし、これにバランスする力がなければ、ジェット気流は西から東に流れ続けることはできません。このバランスする力が、「コリオリの力」と呼ばれるものです。これは、地球の自転の効果として、ジェット気流などの大規模な風、あるいは海流を曲げようとする力のことです。このコリオリの力は、北半球ではこの流れていく向きの右手側にこの曲げようという力を及ぼします。ですから、このような北向きの気圧傾度力がある場合、南向きのコリオリの力が働く、といった流れになるのが自然の法則です。
ですからこの場合、北半球では西風になります。南半球では熱帯・温帯・寒帯の位置が逆になりますが、地球の自転の効果つまりコリオリの力が南半球では流れの左向きに働きますので、やはり南半球でも中緯度域では西風が吹くということになります。こうした、コリオリの力と気圧傾度力が釣り合った流れのことを「地衡風(ちこうふう)」と呼びます。ジェット気流はもちろん、この地衡風の性質を非常に強く持っています。
次に、今触れた地衡風についてお話しします。熱帯域では、空気がどんどん膨張して気圧が高くなっているわけです。ですから、この地表付近を基準に考えますと、上に行けば行くほど、空気の膨張と収縮の差がどんどんついてくるわけです。ですから、気圧傾度力は、地表付近よりも上層に行けば行くほど強くなります。そして、それに釣り合うように、コリオリの力も上層ほど強くならなければいけません。
このようにして、西風も上層ほど強くなっています。われわれが住んでいる対流圏の一番上で「圏界面」と呼ばれるレベルにおいて、最も西風が強くなります。そしてそれを「ジェット気流」、このようなメカニズムを「温度風平衡」と、われわれは呼んでいます。これは、大規模な大気・海洋の流れが満たすべき、最も基本的な力学的拘束条件になります。この地衡風の特徴は、等圧線あるい...