●2018年夏の異常気象を引き起こした要因を整理する
ここで、夏の異常気象が起きた要因の予想を、もう一度おさらいしてみます。
上の図は、ジェット気流の蛇行が関わっていますが、これは極東域、東経120度から160度において、東西方向に平均した200ヘクトパスカル、上空12キロメートルにおける西風風速の時間推移を緯度の関数として書いたものです。矢印下の色の付いているところは2018年の風速で、黒い線が平年の状態を表しています。
ですから平年ですと、6月くらいは大体北緯35度から40度の間に吹いており、それが徐々に北上してきて、梅雨明けとともに弱まって北上するということになります。そして8月になるとまた強くなって、これが秋雨につながります。
2018年はどうだったかというと、結構蛇行しています。まず6月中旬に、オホーツク海高気圧が強く発達して梅雨寒になった後に一気に北上して、この時点で関東は記録的に早く梅雨が明けて、北海道でその直後に豪雨がありました。そのジェット気流がいったん南下したところで、西日本豪雨になりました。その後また北上しつつ、ここで北陸以西において一斉に梅雨が明けて、全国的な猛暑が7月後半にやってきます。
実は、台風12号が7月の下旬、日本付近に接近しました。これは、日本の南部を東から西に進んだという、今までにはないような動きをした台風です。この時、亜熱帯のジェット気流が、極東域において北緯50度よりも北にありました。これは異常なことです。そして、この南側の亜熱帯高気圧が、北海道の上空にありました。ですから、本州は、弱い東風になっていました。この東風によって台風が西に動かされたのです。
その後、亜熱帯ジェット気流は強まりながら南下をして、北海道のすぐ北を吹くようになります。これによって北海道に秋雨前線が停滞して、長雨になりました。その後は徐々に南下して、東北・北陸でも月の後半には雨が多くなりましたが、依然として東日本・西日本の太平洋側を中心に、猛暑と少雨が続いたということです。
●ジェット気流の北上はなぜ起こったのか
では、このジェット気流の北上それ自体、これがどんな原因で起こったのか、それを考えてみます。これについてわれわれは、大気の大循環モデル、つまりグローバルな大気モデルを使って、平年の水温を与えた場合と、2018年に観測された実際の水温を与えた場合と、2通りのケースでアンサンブルの実験を行いました。
大気大循環モデルに関しては、解像度が50キロメートルとかなり高めで行っていますが、左側の図が観測になります。これは6月から7月にかけての観測を示していますが、太い箇所が平年です。赤い箇所がジェット気流の強いところで、青い所がジェット気流の弱い所になります。平年のジェット気流の南側で弱くて北側で西風が強いわけですから、ジェット気流が6月下旬からずっと北上していたことを意味します。そして、7月の後半に特に北上が顕著であったというわけです。
これを大気大循環モデルで同じように書くとどうなるかといえば、右側の図のように、きちんとこのジェット気流の北上傾向を再現できています。20の異なる初期値を与えています。水温の与え方をいろいろと変えてみますと、特にジェット気流の南側での西風の弱まりには、中緯度の水温偏差が効いていたことが分かります。
他方で平年のジェット気流の北側で西風を強くするという効果は、この熱帯だけではなくて、中緯度の影響も併せて起きていたことが分かります。ということで、この水温の偏差というものが、2018年におけるジェット気流の北上に効いていたのではないか、そう推察されます。
同じように3月以降、北半球の中緯度全体で、気温が高くなっていました。資料の左上の図は、対流圏の上空1.5キロメートルから8キロメートルくらいまで、そこにおける対流圏の気温を大気の厚みをもった気温と捉え、その時間推移を見たものです。これは、東西に平均したものです。グラフ縦軸が緯度であり、横軸が月の関数になっています。EQは赤道のことですが、緯度40度のあたりを見てください。この北半球の中緯度で3月ぐらいから、顕著に気温が高いことが分かります。赤く色が付いたところです。これは規格化しても、平年の2倍から3倍ぐらい気温が高い状態が7月まで続いていたわけです。
右上の図は少し解像度が低いモデルですが、気温の偏差が高くなっているところが、やはり有意に再現されています。特に緯度40度帯で顕著です。これは、地球全体に対して観測された水温を与えた場合と、そうではなく平年の状態の水温を与えた場合、これらの実験の差を取ったもので...