●「弥生の小海退」説の難点
―― では、続きまして「弥生人が生きた環境・気候」というところで、まさに古気候の復元とか、寒冷化と稲作の関係、それからどのような植物が自生していたかというところになります。最初は「弥生の小海退」ということです。
藤尾 もともと、弥生時代が始まった頃、つまり水田稲作が始まった頃は寒かったのではないかという説が1960年代からあったのですね。
その根拠として、その頃は海が沖のほうに退いていました。それは「海退」といい、「弥生の小海退」というのです。なぜ小海退というかというと、小海退があると大海退があるのかということなのですが、最終氷期のいちばん寒かったときは120メートル下に海がありますので、それは大きいですよね、大海退ですから。こちらはわずか数メートルなので、それで小海退というのです。
その根拠は、弥生土器が出てくる包含層があるのですけれど、それが黒っぽい色をしているのです。弥生土器が含まれている層です。これはだいたい植物が生えていて、それが腐食すると黒っぽい土になるわけですけれど、それがずっと海の中までずっと続いていることが三河地域で確認されたのです。
今では2メートルぐらい海水面の下のところまでずっとそれが続いているので、この植物が生えていた頃は寒かったのではないか。だから、(今は)海の底にあるわけなのですけれど、土器も含め、それを炭素14年代(測定法)で調べたら、弥生時代が始まった頃なので、それで弥生時代が始まったのは寒かった(頃)ではないかとなり、小海退を根拠にしていたので「弥生の小海退説」と言っていたのです。
その後、先ほども出ましたように、弥生時代は紀元前3世紀頃始まったと、年代がその後についてきますので、紀元前3世紀頃は寒かったとなっているわけです。
なので、もともと寒かったことと紀元前3世紀は無関係だったわけなのですけれど、考古学者は紀元前3世紀頃に弥生時代が始まるというので、では弥生時代が始まった頃が寒かったのですよねという話なのです。その話が20世紀ずっと続いていたのです。
―― なるほど。
藤尾 ところが、海面が上がったり下がったりというと、基本的に海は地球全体につながっていますので、それがローカルな気候変動...