●「生物圏」の中につくられた「人間圏」
地質年代という46億年の歴史の中で、ごくごく最近のあり方は異常ではないかということを、前回までに話しました。
別の見方をして、時間ではなく空間で見てみると、地球という物体の周りは大気が取り巻いていて、その中に鳥がいたりするわけです。そこで、「圏(sphere)」という分け方が成り立ちます。
岩石でできている地球は「岩石圏(lithosphere)」、それを取り巻く大気が「大気圏(atmosphere)」、その中に生物が生きている部分を「生物圏(biosphere)」といいます。
それをざっと絵で描いてみると、地殻という地球表面があって、下へ行くとマントルになり、「核」という燃えている熱いドロドロのところに至るのが地球の構造です。地球表面の地殻の上に大気が乗っているわけですが、その間のところに生物が棲んでいる。ここを「生物圏」と呼んでいます。
生物圏は、太陽エネルギーを原動力にして動いているわけですが、人間は石炭・石油・原子力などを利用して、自前のエネルギーで動くようになった。これにより生物圏の中に「人間圏(anthroposphere)」と呼べるものをつくってしまったのではないかと指摘する人が出てきました。元東京大学教授の松井孝典先生などが人間圏について、生物圏の中でもちょっと違うものだということで提唱されていました。
これも先ほどの人新世の考えと似ています。結局、人間圏はいつできたといえるのか。それが人新世の始まりということなのでしょう。それはやはり、自前のエネルギーを投入できるということで、産業革命以後なのでしょうか。
この時代には人間活動というものが人間圏をつくって、いわば「勝手に動くように」なった。そこから始まり、地質時代の区分としても明確に区分できるほど変わった時代になったことが問題意識として提案されているのが、人新世なのだと思います。
ですから地球圏で見たときも、新たな人間圏というものが主流となった地質時代が人新世なのだということなのです。答えは、「そうですね(YES)。やっぱりおかしいですよね」ということになろうと思います。
●エネルギーと物質の循環を観察するエコシステム
では、地球ではエネルギーと物質がどのように循環しているかということを、あらためて見ていきたいと思います。
生物は全て、からだをつくるために物質が必要だし、活動するためにエネルギーが必要です。そして物質は、地球圏内のいろいろなところ(大気、水中、岩石の表面など)を循環しています。
なくなったり、消えてしまったり、どこかからつけ加わったりすることはなくて、全部地球や大気のあたりをぐるぐる回っている。それからエネルギーは、何度も言っているように太陽からのエネルギーしかありません。
そこから「エコシステム」という考え方が出ました。ある場所を切り取って問題とした場合、インプットとしての太陽と物質、アウトプットとして生きものが生きた後のエネルギーはどう拡散し、物質が捨てられていくか。そして、これらがどう動いているか。インプットとアウトプットの整合性は取れているか。それらを見ていくのが、エコシステムの考え方です。
●熱エネルギーの法則
ここに2つ、熱力学の大事な法則があります。エネルギーというのは、もとは太陽ですけど、エネルギーは形を変えてもなくなることはない(エネルギー保存の法則)。熱になったり糖分になったり、からだをつくってからだを動かしたりして、エネルギーの形は変わるのだけれども、総量は同じです。
ただ、熱というのは拡散する一方であり、二度と使えないものです。ですから、太陽からやってきても、必ず熱としてどこかへ行ってしまう部分があり、そのまま全部を使うことはできない。総量としては同じ量あるのだけれども、そのまま使えるかどうかというと、どんどん使えなくなるわけです。
生物圏は地殻の上の大気のあたりで、ここに生物全てが棲んでいるわけですが、その生物圏に毎年インプットとして入る太陽エネルギーの行方はどうなっているのでしょうか。
30パーセントは反射されて地球に届きません。熱になってしまうのが46パーセントです。蒸発や雨を起こすのが23パーセント、風や波や流れを起こしているのが0.2パーセント。植物に取り込まれて光合成をするために、植物のからだに使われている太陽エネルギーは0.8パーセントです。
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