●教養人必読の古典、中世アラブ文学『マカーマート』
皆さん、こんにちは。
中世(アラブ)文学の古典に『マカーマート』という作品があります。これは12世紀のアル・ハリーリーの手になる教養・知識人層を対象にした書籍、すなわち教養・知識人階層であれば必ず読まなければならないとされた古典です。
「マカーマ」というのは単数系で、(アラビア語では)伝統的な集会において雄弁家が立ち上がって行う技巧的な演説を指します。韻や音律を踏まえ、単語の選択や重ね合わせなどに非常に周到な準備をこなし、非常に難しいアラビア語の文法を高度に理解した人々が作った文章でもありました。
12世紀以来、彼らにとって『マカーマート』は、『コーラン』に次ぐ、あるいはそれ以上に必読の古典とされてきました。そこには共通の語り手と主人公が設定され、中東世界の全域にわたる政治や社会経済、ひいては社会風俗、日常生活にまたがるウィット(機知)と弁舌でやり取りされる豊富な話題が取り上げられています。
それを読むと、人間の運命や運、あるいはツキといった観点が、現在の政治にも非常に参考になり、現代政治を不思議と照射しているのではないかと思えるものが満載です。今日、最初に私がこれに触れたのは、他でもありません。
最近の私は日本政治を見るにあたって、堀内勝氏の手になる日本語訳である平凡社東洋文庫に収められた3巻本の『マカーマート』を、普段からも比較的よく繙いていますが、改めて思いついて読んでみますと、最近の石破新総裁・新総理の誕生や、下馬評の高かった高市早苗氏、あるいは小泉進次郎氏などの落選、敗北と、その背後にあった事情や敗北の原因などをどう解釈するかについて、参考になる文章が非常に多かったように思います。
この本を読むにあたって、運の良し悪し、人間とりわけ政治家にとって運がいいとはどういうことか、逆に悪いとはどういうことかといった面において、中世アラブの知恵に学ぶところが私なりにありました。そこで、少し考えてみたところ、皆さんとともにもう一度勉強してみたいと思うのです。
●石破新総裁誕生にみる「時の幸運」
『マカーマート』の中に次のような文章(節)があります。
「彼とともに在りせば 我が煩い事も消え
時の幸運(めがみ)来たりてその顔を顕わさん
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