●政党の定義はなかなか難しい
―― 皆さま、こんにちは。本日は曽根泰教先生に「野党論」についてお話をいただきたいと思っております。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
曽根 はい。
皆さん、民主主義を考えるときに、「野党のない民主主義」はあり得るかと疑問に思う方がいると思います。民主主義の定義の中で、野党を定義する場合と複数政党を定義する場合があります。複数政党でも、実質的に政府に反抗や対抗のできないダミーの政党が並んでいる複数政党制は、民主主義とはいわないわけです。
そして、もう一つ。民主主義を考えるときに、「いや、野党がいなくても、政権党があらゆる階層、あらゆる利益、あらゆる地域と職業を代表している。これで包括的に全ての利害を吸収しているのだから、野党は要らない」という説が、一党の正統性を主張するときがありますが、これも普通、民主主義とはいわないわけです。
―― では、例えば中国共産党などというケースはどうなるのでしょうか。
曽根 民主主義には入らないですね。
政党という定義は非常に難しく、9000万以上の党員がいる中国共産党も政党なのかということになります。中国共産党には人民解放軍という党の軍がありますが、そこまで政党に入れるのか、ということです。基本的には、一応政党として位置づけるけれども、民主主義的な政党ではないと理解すればいいと思います。
「野党はなくてはならない」というところでは、多くの方が民主主義の定義に同意してくれると思いますが、それでも政党の定義はなかなか難しい。例えば、憲法には具体的な規定がありません。しかし、日本でも明治以来、政党政治が想定されてきました。そうすると、憲法に具体的な規定がなかったり、あるいは政党法という法律によってしばられることがなかったりしても、政党は存在するし、野党は存在するのです。
●与党と野党の関係は圧倒的な非対称性
曽根 一般的に、与党と野党の関係はこの(図の)ようなイメージだろうと思います。
国会の議席(衆議院定数465)で、与党が多数議席(293)を持っています。野党のほうは無所属を入れて172なので、野党のほうが少ない。だから「多数対少数」の関係だ、というイメージです。
しかし、実は与党と野党、いいかえれば政権党(Government)対野党(Opposition)の関係は非対称です。なぜ非対称なのかというと、議会の議席数ではなく、多数派の選んだ首相が構成する内閣が行政府を持ち、監督しているからです。実質的に行政府は官僚機構で、たくさんの省庁を持ち、公務員も50~60万人属しています。年間の予算にすると、一般会計約100兆円、特別会計約200兆円を超えるものを執行しています。
ということで、野党と政権党の関係は対称形ではありません。圧倒的にハンディキャップゲームだということを、まず頭に入れていただきたいのです。
●野党の政策はほとんど実行されない
曽根 上の図はまったくのイメージですが、実際に野党の政策はほとんど実行されないのです。流通している政策のほとんどは政権党の政策です。
ところが、左の自動車のほうを参考図としてご覧になっていただきたい。(1位の)トヨタが全部の車のシェアを持っているわけではなく、小さくてもすばるや三菱のシェアもあれば、輸入車もこの中に入っています。
日本の政策の中に外国の政策が紛れ込んでいるかというと、政権党を通して外国の政策を学習して導入することはあるけれども、外国のシェアがあるというのは、まずあり得ない話です。
野党の政策は、ときどき法律として通ることはありますが、野党が提出する法案は通常、議員数が少ないので議員立法として通過しません。通過して法律になるのは与党と協力して議員立法を通したときだけです。それをカウントすると、1パーセントよりは少し多いものの、普通のビジネス世界でのマーケットシェア3位や4位とは圧倒的に違う、つまり第1位だけが圧倒的な強さを持っている、ということです。
それでも野党を入れることの意味は、企業の人たちには理解しにくいだろうと思います。取締役会に野党(的存在)をあらかじめ想定して、反社長派を入れるような会社はありません。
●野党は批判をするのが仕事
曽根 ですから、あらかじめ野党を想定して入れておく民主主義は、組織論からいえば非常に不思議な制度、あるいは贅沢な制度といっていいと思います。
これは無駄だと言う人もいますが、そうではなくて仕組みとして、野党がいないと健全な形で民主主義は機能しないという理解のほうが普通なのです...