●小選挙区制と比例代表制の戦い方の違い
曽根 ちょっと数式が出て恐縮ですが、小選挙区制と比例代表制で、どうしてこれほど作戦が違うのかということを簡単に申し上げておきます。
議席が1議席の場合は、2分の1(50パーセント)以上の票を取ると1議席は確保されます。つまり相手(他の候補者)がどれだけ票を取ろうが、1議席は確保されます。これが2議席だと、3分の1(33.3パーセント)以上の票を取れば、他の候補者が何票取ろうと、1議席は確保されます。これは法則ですから、かなりはっきりした数字になっています。実際は候補者がたくさんいますから、それよりは少なくて済むのですが、基本は1議席なら2分の1、つまり小選挙区制なら2分の1の票を取る必要があるのです。
いろいろな国のデータを調べていくと、経験的にもそうですが、第1党と第2党が実質競争をしていて、第2党と第3党の間にギャップがあることが分かっています。そうすると、実質的には2つの候補者間の競争になるのが小選挙区制です。
一方の比例代表制では、ドイツの場合は5パーセント条項があり、少数党を切り捨てています。日本はそういうものをつくることができませんから、ブロック制をとっています。ただ、ブロック制をとっていても、四国と近畿では最低当選ラインが全然違います。だから作戦が異なるのです。近畿であれば少数党でも当選が可能だということです。
そう考えると、小選挙区制の場合は50パーセント以上を目指さないといけないわけですが、ある地域に特定の政党の支持者が固まっていることがあります。例えばスコットランド国民党(SNP)です。スコットランドにはスコットランドの地域政党があり、これが保守党や労働党よりもずっと強いのです。
日本維新の会も、大阪の場合にはそういう強さを持っています。ただ、これが全国規模に展開するかどうかは別の話です。
もし全国規模に展開して、上の表で見るようにどこへ行っても自民・立憲・共産の全てを蹴散らすだけの大量票を取っていければ、維新は日本で政権を取れます。ところが、そうならないから、野党は選挙協定を結ばざるを得ないのです。
これは簡単な話で、小選挙区では、自公は一本化どころか、選挙協力で候補者が決まっていて、一人しか出ませんし、票を融通します。野党が複数で競争したら、漁夫の利は与党(政権党)に行ってしまいます。であれば、選挙の作戦として選挙協力をせざるを得ないのです。
比例代表制の性格はなかなか難しいのですが、先述したようにブロックで比例が組まれています。比例とはいっても、全国の場合には、広く数パーセント、あるいは1パーセント、2パーセントでも議席を取ることができます。ある種職能代表的な団体、例えば労働組合、農業団体、宗教政党、あるいは趣味の団体など、広く浅く(票が取れる)団体は全国の場合だと取れますが、それがブロックで固まっていると票の取り方が少し違います。それでも50パーセントを目指さなくていいことは、先ほどの例で分かったと思います。
しかし、現実的には小選挙区制と比例代表制が組み合わさっているわけです。有権者のほうも、2票を全然バラバラに投票することもできるし、あるいは同一政党に入れることもできます。つまり、この2票の使い方としては、有権者側の作戦も、候補者側(政党側)の作戦も両方あるのです。
ですから、自分への支持を有効に増やすとはどういうことなのかですが、これはとてもテクニカルなことで、およそ連立の話や主義・主張の話とは異なり、技術的なことにすぎないのではないかと思われます。しかし、選挙で勝つためには、この種の選挙のテクニカルなことを乗り越えないといけないというお話です。
●「風頼み」にはいかないのが現実の政治
―― 今の選挙のあり方では、まさに自民党・公明党の与党に対して野党がバラバラな場合の不利という話がありました。逆にいうと、民主党への政権交代が起こった2009年当時も共産党なり別の野党はあったと思うのですが、あの時はそれらを蹴散らすだけの票を民主党が取ったからということになるのでしょうか。
曽根 民主党に票が集まって、糾合してきたのですね。ですから、「風」とも呼べるわけですし、勢いということもあります。「自民党ではもうダメだ」をいう意識もあった。そのような勢いがあるときには、対抗する政党、候補者は抗しきれないのです。
選挙には、「政権交代」を訴えて民主党が勝った2009年の選挙に大嵐のような追い風が吹く選挙もあります。それを一種のブームと呼ぶわけですが、その場その場の風はどっちに吹くか分かりません。この「風頼み」というのは、運としてはあるけれども、恒常...