●政権選択は国民に委ねられた
── 曽根先生、日本の政治構造を長らく研究されてきたお立場からご覧になって、今の小選挙区制度は、結局のところ、変えてよかったのかどうだったのか、先生の評価はいかがでしょうか。
曽根 それは、政権交代を組み込んだ競争システムにするのか、しないのかの違いです。以前の仕組みは「自民党政権が永遠に続く」、これを前提にできているから、自民党の党内競争が実質競争だったのです。
── なるほど、連合政権のようなものですね。
曽根 そうです。自民党政権が続くことを前提にできているから、自民党の5派閥が競争することが実質競争だったのです。ですから、総裁選イコール首相選挙だったのです。
役所も、それを前提に仕組みが出来上がっています。法案を通すときには、まず部会から説得していかなければならない、という制度です。前提となる競争条件は、「もう自民党政権は変わりませんよ」ということです。
では、小選挙区を中心とする制度にしたのは何なのか。これは、「政権選択を国民に委ねますよ」という制度にしたのです。この制度は、政権選択、政権交代があり得る制度なのです。
ただ、その「政権交代があり得る」ところについて、日本はまだ学習過程にあります。政権交代というのは、3年に一度がいいのか、10年に一度がいいのか、何年に一度が適切なのか、そこがまだなかなか見えていません。
また、国民の方も使い方がまだよく分かっていなません。2005年、2009年、2012年と、その都度、変えてしまったというようなことがあったりするわけです。
しかし、ならば自民党の長期政権安定の下で5派閥の競争イコール日本の実質競争という姿が本当にいいのですか? と言われると、これはやはり問題です。
例えば、中国共産党がそうです。中国共産党は永遠です、という前提で、党内の政治委員の競争が実質競争である状態です。その中で2020年までに誰を育てますか、というような党内競争をもって実質競争とする状態です。これを競争と言いますか? という問題になってしまうのです。
●それでも政権交代をしていくべき
曽根 日本は、選挙制度は競争的でした。自民党の長期政権時代も競争的ではありました。けれども、これはある種の歴史的な経路依存で、自民党に一極集中してしまった。そして崩れないものができてしまった。そこを動かすには、外部の力が必要だった。それが「選挙制度」だったのでしょうね。
選挙制度を変えて、政権交代することは分かりました。ではどう変えたらいいのか、というのが次の段階です。
政権交代は、どこの国もやっていることです。けれど、これはそっくり入れ替えるのですから、ものすごくコストがかかります。企業で例えて言えば、毎回M&Aをやっているようなものです。日本は、専務が社長になるシステムなら慣れていますが、新しいCEOがポンと入ってきて、全部をガラッと入れ替えるという経営には、体質的に慣れていません。
── コストもものすごくかかるのですね。
曽根 はい。コストがものすごくかかります。けれど、それでも何年かに一度は新しい経営が入った方がいいということはあるでしょう。
ただ、例えばゼネラル・エレクトリック(GE)などは、社内での内部昇進で変えていくということを、ある意味でやっているわけですから、アメリカでも、全部が全部、外から総取っ替えをしているばかりではないとも思います。そこは組み合わせの問題でしょう。競争と長期の人材育成という両方の課題がありますからね。しかし、そのバランスがうまくとれるシステムが、なかなか難しいのです。
── 難しいでしょうね。日本はおそらくその過程にあるのですね。小選挙区制になってから選挙で政権交代をしたのは1回だけですよね。それが3年やって駄目だったと。ですが、これも10年スパンで見ていくと、だいぶ考え方が違いそうです。先生が言われたブレア政権のケースのように、まずブレアを次の野党党首に指名して、党の綱領を変え、10年がかりで育てていった。ある種、イギリスの全盛時代とは、サッチャー政権の改革の果実を手にしたブレア政権ですよね。
●首相・大臣の在任期間の長期化を
曽根 競争条件がありながら政権交代がない国というのは、非常に例外です。日本の自民党長期政権と、あとはスウェーデン社会民主労働党が約40年の長きにわたって政権についていた例はあるのですが、あとはもう少し短いです。その代わり、首相は長いのです。ドイツなども首相は長く、平均8年ぐらいやっています。
── 独メルケル首相も英ブレア首相もまさにそういうことですよね。
曽根 日本は首相が短い。大臣も短い。この短いことを「いい」と考えるのか、「いやいや、相当長くやらないと...