プラトン『ポリテイア(国家)』を読む
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哲学者になるには「数学」「天文学」「音楽理論」が必須?
プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(8)2つの教育論〈下〉高等教育
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
高等教育は哲人王をめざす哲学教育のステップである。哲学を学ぶ人間は、算術と幾何学に始まり、天文学と音楽で完成する5つの数学的諸学科を学ばなければならない。数学により、人は感覚的世界から離れ、純粋に抽象的思考に至ることが可能だからだ。高等教育と初等教育の間にも、人間形成の秘密が隠されている。(全16話中第8話)
時間:14分02秒
収録日:2022年7月8日
追加日:2023年1月5日
≪全文≫

●健全な魂を育む初等教育からトップになる人が受けるべき高等教育へ


 プラトンはポリスの建設に当たって、子どもたちの教育をしていくためには2段階の教育プログラムが必要だということで、初等教育の部分について(前回)お話ししました。

 現在の日本であれば、小学校に当たるような比較的まだ素直な段階で、ムーシケー(学芸)とギュムナスティケー(体育)の2つの柱によって子どもの魂を健全な形でつくりあげていく。そのときに、神様が嘘をつくとか人に害を与えているといった間違った考えは避ける。それにより、正しく勇敢な心を培っていくのが初等教育だったのです。例えば、英雄が「死ぬのは嫌だ」と嘆くようなシーンも御法度です。なぜかというと、これから戦士になる人たちなので、勇気を培わなくてはいけないからです。そのようなときに重要な英雄が嘆いているというシーンは駄目なのです。

 その話が終わった後、少し飛びますが、次は第7巻で2つ目の教育論がなされます。そこまでの間はだいぶ空いていて、そこに今後お話ししていくことが挟まってくるのですが、そこは一旦先に飛ぶことにして、もう1つ別の教育論を語っている部分を見ていきます。

 ここで話されるのは、選抜されて国のトップになるような人の中でも、さらにトップになる人が受けるべき究極の教育です。現在でいえば、大学で行われている高等教育のようなものだと思いますが、それが第2回目の教育論、第7巻における「数学的諸学科のカリキュラム」というものです。


●指導者たる哲学者になるための5つの学問


 ここでは、「哲学者が国の指導者になるべきだ」という理論を述べた後、「では、どうやって哲学者を教育すべきなのだろうか」という問いに入ります。哲学者は自動的にできるわけではなく、長年をかけてカリキュラムに沿った勉学を磨いていって、ようやく一人前の哲学者になれるわけです。では、それをどうやっていくのかというプログラムが示されます。

 現在でいえば「数学」に関連する5つの科目を順番にたどることによって、それは得られるといいます。ここでは順番も重要で、最初は算術(数の計算)です。2番目が平面幾何学、3番目が立体幾何学、4番目は天文学、そして5番目が音楽理論です。最後の音楽理論はどうしてかと皆さんはお思いになるかもしれませんが、これらを順番に上っていく。そして、5つの学問を修めた後...

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