プラトン『ポリテイア(国家)』を読む
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
船乗りの比喩…哲学者の「哲人政治」は理想か全体主義か
プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(11)哲人統治論
哲学と生き方
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
理想の国家を目指すための第3の大波が「哲人政治」である。哲学者が訓練を積んで国を支配する、あるいは政治家が真正に哲学をすることで、その役割を果たす。その必要性と最善性を説明するために用いられるのが「船乗りの比喩」である。そこででてくる船主、水夫、操舵手とはいったい誰のことなのか。(全16話中第11話)
時間:14分10秒
収録日:2022年9月27日
追加日:2023年2月24日
≪全文≫

●第3の大波としての「哲人政治」


 理想のポリスをめぐっては、3つの大波があります。第1の大波と第2の大波を無事切り抜けたソクラテスは、第3の大波に向かいます。第3波は一番大きい波になります。

 グラウコンはこのように問います。「いったい今後ポリテイア(国制)というのは本当に可能なのでしょうか。絵に描いた餅ではないですか。可能だとしたら、どうしたらいいのかということを教えてください」。

 今までは「これは素晴らしい社会だ」「これなら完璧だ」ということを言葉の上でけっこう自由勝手に言ってきたといえますが、ソクラテスはここで「この話は実現可能でなかったら意味がないでしょう」という問いに直面します。

 ソクラテスは、「できるだけ正義に近い、正しいモデルを描いてきたのだから、それで許してくれよ。画家だって、本当に存在しなくても、すごい美人や格好のいいものを描くではないか」と言うのですが、なかなかそれでは許してもらえません。

 そこでソクラテスは渋々と「それなら、できるだけ近い仕方でそれを実現する、おそらく唯一の、しかも最小限の変革をするアイデアはある」と言って、第3の大波に当たる提案を話します。それが有名な「哲人統治」というものです。哲人は哲学者ですから、哲学者がこの世界を統治するということです。

 彼はこう言います。「哲学者がポリスで支配者になるか、現在の支配者が真正に哲学をするようにならなければ、ポリスにとっても人間にとっても悪が止むことはない」。つまり、ちゃんと哲学者という資格を名乗れる人が守護者になるか、あるいは現在、守護者の人が本当の意味で哲学者になるか、これら二つが同じことを意味するかは実は分かりませんが、「その2つのどちらかが成り立たない限り、人間にとって不幸は終わらない」と言うのです。

 幸福と不幸というのはずっと今までの議論にありました。「正義というものは、幸福をもたらすのか」を考える場面で、この提案が出てきたわけです。


●哲学と政治を両立する「哲人政治」という理想


 さて、哲学者と政治はどういう関係にあるかというと、今もそうだと思いますが、水と油のような関係です。哲学は真理を探究する。この世界(現世)については、あまり細かいことを気にせず、とにかく真理を純粋に探究したい。世俗的なことは気にしない。それに対して、政治は実際の駆け引きで...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
哲学から考える日本の課題~正しさとは何か(1)言葉の正しさとは
「正しい言葉とは何か」とは、古来議論されているテーマ
中島隆博
「心から幸せになるためのメカニズム」を学ぶ(1)心理学研究と日本の幸福度
実は今、「幸せにも気をつける」べき時代になっている
前野隆司
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
川口淳一郎
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
片山杜秀
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
西多昌規
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(1)イノベーションと価値創造
価値創造において重要なのは未来から現在を見るという視点
遠山亮子
DEIの重要性と企業経営(4)人口統計的DEIと女性活躍推進の効果
日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい
山本勲
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性
同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」
佐橋亮
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
宮脇淳子
睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション
寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由
西野精治