●プラトンが「対話篇」に込めた興味深い仕掛け
プラトン『ポリテイア』という対話篇を読み解いていきます。
プラトンの他のほとんどの著作と同様、これは対話篇で書かれています。「ソクラテス対話篇」と呼んでいる形式の一つです。紀元前399年にソクラテスが処刑されてしまった後、それを受けて彼の弟子たちがソクラテスを主人公にして書いた対話形式の作品があり、プラトンの作品はそのうちのごく一部です。プラトンはそこで、自分の哲学を独特の形で展開していることになります。
プラトンとその仲間が書いたソクラテスの対話篇には、大きく2通りの形式があります。「直接対話篇」すなわち戯曲形式として登場人物がいきなりしゃべる形式と、「間接対話篇」として対話がなされたことを報告する形式です。
この『ポリテイア』という本は間接対話篇であり、ソクラテスが前日に自分が交わした対話を、その翌日誰かに向けて報告しているという形式を取ります。そのため、ほとんど全ての行に「…と私は言った」「…と彼は言った」と入ります。
今回は、なぜこの対話篇という形式を採っているのかということを確認していきたいと思います。これは、ただ単に文学的な手法だとか、あるいは生き生きとした設定だとかということではなく、非常に複雑かつ興味深い仕掛けが込められています。
とりわけプラトンは、その対話の設定に非常にこだわった作家です。文学的にもそうですが、実は哲学的に非常にこだわった作家だと思います。「設定」というのは、対話がなされている時期、どういう人が対話しているのか、あるいはそのトピックはどういうものか、ということをそう呼びます。
ですから、これは学術論文とは違い、何年何月頃に、誰が誰と交わした対話といった形式を採っています。それをどう読み解くかということが、私たち読者にとってはまず必要になるわけです。
●「対話篇」の読み解き方と「3つの時」
一般的にプラトンは、歴史的な事実にむしろ非常に忠実に作っているというのが私の分析です。すなわち、自分の生きている時代から数十年離れた時代であっても、かなりヴィヴィッドにその時代の状況を復元することができる。日本のわれわれが馴染んでいる形式でいえば、歴史小説のような感じです。 例えば、幕末や戦国の時代を非常にリアルに体感さ...