プラトン『ポリテイア(国家)』を読む
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
なぜ戦争が始まるのか――ポリスをめぐる壮大な思考実験
プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(6)言論でのポリス建設
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
一人ひとりの正義を知るには、より大きな国の正義を見るのがいい。類比の方法に基づいて第2巻の後半から「言論によるポリス建設」がなされる。そこで一種の壮大な思考実験が行われる。「なぜ私たちは共同体で生きるのか」に始まり、分業によるミニマムな共同体に人が増えていき、ぜいたくな社会(国)になると、戦争が始まるので、軍人という職業が必要ではないかと、ソクラテスとグラウコン、アデイマントスの3人の議論は進んでいく。(全16話中第6話)
時間:13分18秒
収録日:2022年7月8日
追加日:2022年12月22日
≪全文≫

●大きいほうから小さいほうを見る――類比による議論


 『ポリテイア』第2巻の前半では、グラウコンとアデイマントスによる正義へのチャレンジが行われました。ソクラテスはそれを引き受け、「正義はそれ自体として行うことが善いことだ」、もっというと「正義を行っている人は幸せなのだ」ということを証明する議論に取りかかります。それが、第2巻の後半から始まる長い議論になります。

 いきなり答えを言うことができないというので、これから見れば分かると思いますが、非常に大仕掛けの議論が始まります。ここから別の対話篇が始まるのではないかというほどの大仕掛けです。そこでは政治学、倫理学、魂論など、全ての議論が必要になってくる。つまり全哲学をかけて、この問いに答えていくことになるのです。「正義とは何か」、それは私たちにとって簡単に答えられる問題ではなく、いわば哲学全体のキーになるような問題だということが分かってきます。

 さて、その仕掛けの最初に、ソクラテスはやや唐突に「大きな文字と小さな文字」という話をします。例えば、正義の「正」を大きく書くのと小さく書くのでは、どちらが見やすいかというと、大きい文字のほうが「正はこういう画数だね」と見やすいですよね。特に視力の弱い人、遠くから見ている人は、大きな文字を見たほうがいい。でも、大きくても小さくても、どちらも「正」という文字に変わりはない。だから、大きいほうから見て、小さいほうと比べていけばいいのではないかというのが、これから始まる議論の大枠です。

 大きな「正」の文字に当たるのはポリスで、小さな「正」の文字のほうは一人ひとりの人、もっといえば「魂」というもので、それを見ようということになります。

 私たちが「正」を見、「正義」や「正しい」ことはどこにあるかを見ようとする場合、その1つの場面は当然ながら社会であり、「国」と呼んでもいいでしょう。社会全体を視野に入れ、その社会が正しい社会になっているかどうかということは、規模が大きいので見やすいかもしれません。

 しかし、ひとりの人の魂や心、生き方が正しいかどうかというのは、それなりに見るのは難しいかもしれません。だから、大きいほうを使って、小さいほうを見ていこうと。これは「類比」と呼びますが、アナロジーとしてこの2つを比べていきましょうというのが、これから始まる議論です。


●「...


スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
もののあはれと日本の道徳・倫理(1)もののあはれへの共感と倫理
本居宣長が考えた「もののあはれ」と倫理の基礎
板東洋介
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留
キリスト教とは何か~愛と赦しといのち(1)「イエス」とは一体誰なのか
「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?
竹内修一
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人
イスラム教におけるシーア派とスンニ派の違い
イスラム教スンニ派とシーア派の違いとは?
山内昌之

人気の講義ランキングTOP10
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(2)戦争省とチャーリー・カーク暗殺事件
チャーリー・カーク暗殺事件とは?その真相と政権への影響
東秀敏
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
組織心理学~「不満」を生かす(1)不満・相談・予防
職場への不満は6割以上~ポイントは隠蔽、心理的安全性…
山浦一保
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
経験学習を促すリーダーシップ(4)成功を振り返り、強みを伸ばす
なぜ強みが大事なのか?ドラッカー、西田幾多郎の答えは
松尾睦
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏