●『ポリテイア』全体で最も重要な問題提起は第1巻の「正義とは何か」
プラトン『ポリテイア』を読み始めましょう。今回は、第1巻がどういう問題提起をしているかということを見ていきます。
『ポリテイア』は、現在では全部で10巻になっています。「巻」というのは古代の一つひとつの巻物を指す呼び方で、長い作品のパーツを表します。ただし、これはおそらくプラトンが自分でつくったものではなく、写すときに便宜的に分けられたものです。これはなかなか便利なので、われわれも便宜的に「第何巻」という呼び方を使わせていただきます。
藤沢先生の翻訳(『国家』〈上・下〉)では、(各巻の)最初に(10巻)全体の梗概が載っています。どこでどういう議論をしているかということが書いてあり、非常に便利ですのでお使いください。
第1巻は若干他と違って、ちょっと独立した対話篇のような感じになっています。今からお話しするストーリーも、1巻だけで完結するようになっています。
現代の学者でも、この第1巻はもともと独立作品として、別に作られたのではないかという推測を行う人もいます。独立作品だとすると、おそらく『トラシュマコス』というタイトルだったのではないかといいます。私はそう思ってはいませんが、そう考える人もいるぐらい独立性の高い作品です。これだけで非常に面白く、第1巻だけ読んでも魅力満点です。
この第1巻において、まさに『ポリテイア』全体の主題である、「正義とは何か」という問題が明確に示されていくことになります。その意味で、最も重要な箇所だと思います。
●ソクラテスとケファロスの対話――財産論から「正義とは何か」の追究へ
この第1巻では、語り手であり、かつこれからずっと対話を導いていくソクラテスが、3人の人物と次々に対話をしていくという形式をとります。1人目、2人目、3人目と、相手が交代しながら対話していくわけで、こういう対話篇は他にもあります(『ゴルギアス』など)。
最初の人物は、ケファロスというペイライエウスに屋敷を構えている大金持ちのおじいさんです。その息子のポレマルコスが2番目で、3番目はそこにゲストして来ていたソフィストのトラシュマコスという人物です。
これは、年齢も背景も違うキャラクターと次々に議論する、非常にドラマチックな仕立てで、...