プラトン『ポリテイア(国家)』を読む
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
詩人追放論と劇場型政治の批判…イデア論の本質と模倣
プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(15)詩人追放論
哲学と生き方
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
プラトンの評判を落としている「詩人追放論」には、存在論的議論と心理学的議論の2つの側面がある。存在論的議論では、「寝椅子のイデア」という話を用いながら、ホメロスの作品を標的にして詩というものの存在意義について挑戦している。一方、心理学的議論では、「劇場型政治」という言葉を使いながら、感情の解放によって悪い方向に肥大化してしまう危険性を提示している。重要な論点として鍵となるのは「ミーメーシス(模倣)」である。なぜ詩人を批判したのか。プラトンの考え、その深層に迫る。(全16話中第15話)
時間:12分54秒
収録日:2022年9月27日
追加日:2023年3月24日
≪全文≫

●現代まで評判がよくないプラトンの「詩人追放論」


 『ポリテイア』も第9巻までを経て、「正義とは何か、不正とは何か」ということについて、大方の議論の決着はついています。第10巻という最後の巻は補論、まとめに当たるもので、いくつかのトピックが出てきますが、それぞれ非常に重要な補いになっていると思います。

 今日は「詩人追放論」と呼ばれる非常に有名な議論をご紹介したいと思います。教育の話はこれまで何回か出てきたように、この『ポリテイア』の政治・倫理の話の中の中核をなしていました。第2巻から第3巻にかけての初等教育の話では文芸と体育の教育、第7巻では数学的な高等教育の話が出てきました。それを受けてもう一度振り返りながら、もう一回「詩」というものを取り上げます。

 詩(ポイエーシス)は、現代のポエトリーの語源になっているもので、もともと「制作」という単語です。ギリシアにおいては、これが教育や文化の基本でした。現代日本では詩よりも短歌や俳句のほうが身近で、詩人は非常に特殊な人という扱いを受けます。しかし、当時のギリシアには叙事詩、叙情詩、悲劇、喜劇があり、フェスティバルのたびに詩人が詩を朗読しました。いわば現代のマスメディアや教育、カルチャーの総合的なものだったと考えていただければと思います。つまり、これからお話しする話は文化(カルチャ-)の問題です。

 ソクラテスは以前の議論を振り返りながら、「これまでの詩に対するわれわれの扱い方は正当だった」と言います。「模倣(ミーメーシス、真似る)」ということについて、「われわれは理想的な国から追放したよね。それは、正しいことだよね」と言って、もう一度それを確認する議論を行います。

 つまり、本当に正しいポリスや社会において、詩というものは基本的に認めるべきではない。認めるとしても限定的に認めるべきだということになります。これが伝統的に「詩人追放論」と呼ばれていて、プラトンは哲学の立場から詩、すなわち文学にチャレンジした、もっといえば争いを挑んだといわれます。

 実際、この中でソクラテスは「哲学と詩の間には昔から諍いがある」と、あたかもずっと対立があったように言っています。これは一見過激な感じに見えますが、やはり人間のあり方、生き方をめぐって根本的にそれぞれ違う考え方があり、それをどのように私たちが考えていくかという議論...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
哲学から考える日本の課題~正しさとは何か(1)言葉の正しさとは
「正しい言葉とは何か」とは、古来議論されているテーマ
中島隆博
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人
おもしろき『法華経』の世界(1)法華経はSFだ!
「法華経はSFだ!」というナラティブの神秘的体験
鎌田東二

人気の講義ランキングTOP10
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(1)各国の財政と国民負担
日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い
養田功一郎
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
「アカデメイア」から考える学びの意義(2)プラトンの学園アカデメイア
プラトン「アカデメイア」の本質は自由な議論と哲学的探究
納富信留
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために
百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために
門田隆将
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子