プラトン『ポリテイア(国家)』を読む
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詩人追放論と劇場型政治の批判…イデア論の本質と模倣
プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(15)詩人追放論
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
プラトンの評判を落としている「詩人追放論」には、存在論的議論と心理学的議論の2つの側面がある。存在論的議論では、「寝椅子のイデア」という話を用いながら、ホメロスの作品を標的にして詩というものの存在意義について挑戦している。一方、心理学的議論では、「劇場型政治」という言葉を使いながら、感情の解放によって悪い方向に肥大化してしまう危険性を提示している。重要な論点として鍵となるのは「ミーメーシス(模倣)」である。なぜ詩人を批判したのか。プラトンの考え、その深層に迫る。(全16話中第15話)
時間:12分54秒
収録日:2022年9月27日
追加日:2023年3月24日
≪全文≫

●現代まで評判がよくないプラトンの「詩人追放論」


 『ポリテイア』も第9巻までを経て、「正義とは何か、不正とは何か」ということについて、大方の議論の決着はついています。第10巻という最後の巻は補論、まとめに当たるもので、いくつかのトピックが出てきますが、それぞれ非常に重要な補いになっていると思います。

 今日は「詩人追放論」と呼ばれる非常に有名な議論をご紹介したいと思います。教育の話はこれまで何回か出てきたように、この『ポリテイア』の政治・倫理の話の中の中核をなしていました。第2巻から第3巻にかけての初等教育の話では文芸と体育の教育、第7巻では数学的な高等教育の話が出てきました。それを受けてもう一度振り返りながら、もう一回「詩」というものを取り上げます。

 詩(ポイエーシス)は、現代のポエトリーの語源になっているもので、もともと「制作」という単語です。ギリシアにおいては、これが教育や文化の基本でした。現代日本では詩よりも短歌や俳句のほうが身近で、詩人は非常に特殊な人という扱いを受けます。しかし、当時のギリシアには叙事詩、叙情詩、悲劇、喜劇があり、フェスティバルのたびに詩人が詩を朗読しました。いわば現代のマスメディアや教育、カルチャーの総合的なものだったと考えていただければと思います。つまり、これからお話しする話は文化(カルチャ-)の問題です。

 ソクラテスは以前の議論を振り返りながら、「これまでの詩に対するわれわれの扱い方は正当だった」と言います。「模倣(ミーメーシス、真似る)」ということについて、「われわれは理想的な国から追放したよね。それは、正しいことだよね」と言って、もう一度それを確認する議論を行います。

 つまり、本当に正しいポリスや社会において、詩というものは基本的に認めるべきではない。認めるとしても限定的に認めるべきだということになります。これが伝統的に「詩人追放論」と呼ばれていて、プラトンは哲学の立場から詩、すなわち文学にチャレンジした、もっといえば争いを挑んだといわれます。

 実際、この中でソクラテスは「哲学と詩の間には昔から諍いがある」と、あたかもずっと対立があったように言っています。これは一見過激な感じに見えますが、やはり人間のあり方、生き方をめぐって根本的にそれぞれ違う考え方があり、それをどのように私たちが考えていくかという議論...

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