ギリシア悲劇への誘い
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プラトン対アリストテレス、模倣の是非をめぐる悲劇論争
ギリシア悲劇への誘い(3)悲劇をめぐる哲学論争
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
ギリシア悲劇は文学の領域にとどまらず、哲学にも大きな影響を与えた。プラトンは「模倣(ミメーシス)」は本物から離れているとして悲劇を否定したのに対して、アリストテレスは逆にその概念を用いて悲劇を肯定した。師弟関係にある2人の哲学者の対立した評価は、現代的な議論にも通じている。(全7話中第3話)
時間:11分46秒
収録日:2021年3月30日
追加日:2022年2月8日
≪全文≫

●プラトンの「詩人追放論」


 ギリシア悲劇は紀元前5世紀に盛んに上映されて、当時の文化の花形になりました。これは市民のエンターテインメントや宗教行事であり、場合によっては政治的な意味もあったと思います。そういったものだけでなく、当然1つの文化の花形として哲学者たちも議論しました。

 今日はその主な論争を1つご紹介しようと思います。私は哲学の専門なので、当時の哲学者たちがどのように悲劇に注目したのかについて、面白い例を1つ紹介したいと思います。

 やはり悲劇は圧倒的な人気と影響力がありました。前回言ったように、春という季節になってこれから暖かくなるという時期に、皆が待ち焦がれて半円形劇場にやってきて、新作を1回だけ観ます。「今年はソフォクレスのほうが良かった」「アイスキュロスのこれはすごい」など、観た人たちは覚えていて、場合によっては論じ合っていました。私たちのように、エンターテインメントがたくさんある社会に生きているわけではないので、ギリシア悲劇が持っていた文化的なインパクトは計り知れないと思います。

 それに対してある意味、正反対の2つの反応が次の紀元前4世紀に起こりました。1つは、プラトンの『ポリテイア』という、日本語で『国家』と訳されている本の最後の巻(第10巻)に、非常に有名な「詩人追放論」があります。「理想的な私たちの社会・国には、詩人は必要ない」と言っています。「詩人」と言っているそこには、最初はホメロスが代表ですが、実は悲劇詩人も入っています。

 説明したように、悲劇は実は詩の一部で、むしろ詩の完成形態です。したがって、ホメロスの“後継者”としてのギリシア悲劇ということになります。そして、プラトンはある意味で哲学の側から詩を批判するときに、悲劇が悪い影響を与えると厳しくとがめました。

 プラトン自身が優れた文学者だといっても構わないと思いますので、ある意味非常にアンビバレントな批判です。それにもかかわらず、詩人追放論は現在でも論争的な大きい影響力を持っています。


●悲劇は現実の模倣にすぎない


 詩は“poiesis(ポイエーシス)”という単語で、もともと「制作、つくる」という意味です。特に「言葉で作詩する」というのが狭い意味でのポイエーシスで、現在でも“poet(ポエット)”や“poem(ポエム)”などはこの単語からきているのはお気づきになると思います。これ...

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